お迎え
チャイムの音を聞き、汰絽は立ち上がった。
風太はリビングで待っている、とジェスチャーをして電話を続ける。
扉を開けると、すらっとした綺麗な体型の女性が立っていた。
「こんにちは。約束より早い時間に来ちゃったわ…」
困ったように頬に手を当てて、首をかしげる。
その姿に汰絽はこんにちは、と返した。
「汰絽君ね、はじめまして。結之母の結子です」
「はじめまして。汰絽です」
「思った通りの、可愛い子ね」
「…?」
結子の懐かしい思い出を話すような声に汰絽は首をかしげた。
そんな汰絽に、結子は笑みを浮かべて続ける。
「あなたのおばあちゃん…、アンリさんとはね、お茶仲間なの。ほら、アンリさんの行きつけの喫茶店知ってる?」
「あ。たぶん、知ってます。一度だけ連れて行ってもらったことがあります」
「あのお店でね、アンリさんと仲良くなったの」
「そうなんですか…!」
「汰絽君、アンリさんの話した通りね」
楽しげに笑う結子に、汰絽は少し照れるように笑い返した。
思い出したように、結子は紙に何かをメモする。
それから、汰絽の手を取って、そのメモを手渡した。
「これ、私の携帯の番号。結之とむくちゃんが仲良しさんだし、今後、手助けできると思うわ」
「…ありがとうございます」
「うん。よろしくね。あ、結之呼んでもらってもいいかな?」
「はい。今呼んできますね」
結子を玄関に招き、汰絽はリビングへ向かった。
リビングに入ると、風太が結之を起こさないように抱き上げている。
「あ、かわります」
「いや、いい。そっちまで連れてく」
「ありがとうございます…」
「別に、構わねえって」
風太の笑みに安心する。
結之のお泊り道具を手に取り、風太の後を追った。
「あら、汰絽君のお友達かしら?」
「はい、ひとつ上の先輩です」
「ハンサムな子ねえ」
風太をまじまじと見て、結子は微笑む。
それから、風太から結之を受け取り、お泊り道具も受け取った。
「お礼はまた今度させていただくね。じゃあ、汰絽君、お友達君、またね」
結子にあいさつを返し、汰絽はほっと息をつく。
静かになった玄関をふたりは後にした。
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