ぴんく色の絨毯
公園の中は、桜が綺麗に舞っていて、ぴんく色の絨毯が広がっていた。
むくと結之が駆けていくのに合わせて、汰絽と風太も少しだけ足早になる。
穏やかな風が頬を撫で、風太の白髪と汰絽の蜂蜜色の髪を揺らした。


「この公園、あまり人が来ないんです」

「そうだな。もっとちびっこがいると思っていた」

「でしょう? 穴場なんですよ。お花見の」

「ああ。にしても…、桜、すごいな」

頷いた汰絽はほう、とため息をつきながら、桜色の絨毯を眺める。


「絨毯みたいです」

「そうだな、俺も思った」

むくと結之はブランコに乗って、楽しそうに競争している。
ふたりはすぐ傍のベンチに腰をかけた。
汰絽は鞄に入っていたデジタルカメラを取り出して、写真を撮りはじめる。


「どれくらい撮ってるんの」

「1日1枚は必ず撮ってます」

「じゃあ、かなりたまってるんだろうな」

「はい。…むくの成長を見ていくのは、もう僕しかいないから。だから、できる限り残してあげたいんです」

カメラを下ろした汰絽は、そう呟いてカメラを撫でた。
汰絽の家庭の事情は知らない。
けれど、汰絽とむくしかいないあの風見鶏の家を思い出すと、急に胸が締め付けられた。


「そうか…。たろさん、俺も一緒に見ていきたいんですが。むくさんの成長」

「…? どうぞ」

「お前軽いなー」

「そんなことないですよ」

「お、そういえば確かにそうだな。朝俺の上に乗ってた時、結構重かったもんなー。実がぎっしり詰まってんのか?」

「ひゃふっ! わき腹は駄目ですよ!」

「はは、おもしれー」

ぷく、と膨れた汰絽に大笑いしてから、風太はブランコで遊んでいるむく達に視線を移した。
元気なふたりはみていて楽しくなるくらい、はしゃいでいる。


「…春野先輩」

「どうした?」

「…一緒に、見ててください」

「…おう。約束だ」

汰絽が唇を噛みしめた。
そんな様子を見て、風太は息を飲む。
猫のような瞳が少しうるんでいる。
きっと、涙をこらえているのだろう。
なんとなく、そんな様子が子ライオンのように見えた。


「猫なのにライオン…」

「?」

「いや、なんでも。たろはブランコに乗らなくていいのか?」

「いいんですー。僕は子どもじゃないのでー」

「押してやるよ?」

「…お願いします」

少しだけ照れるように笑い、汰絽は勢いよく立ち上がりブランコへ向かう。
その後ろ姿を追って、風太もブランコへむかった。
汰絽はブランコから降りたむくと結之の頭を撫でて、微笑む。
優しいその表情に、風太は微笑んだ。
ブランコにちょこんと座った汰絽の小さくて、それでいてどことなく頼もしい背中に手をそえる。
力よく背中を押すと、汰絽が笑い声をあげた。


「どうだー高いだろー」

「ふぎゃぁああ」

「たあちゃんすごーい!」

「高いねぇー」

のんきなむくと結之の話声に汰絽の悲鳴がかぶさる。
回転しそうなくらいに高くまで上がり、風太は軽く笑った。


「止めてほしいか?」

「ひぃっ…! 止めて…!」

「お、たろ泣くかー? よしよし、いま止めてやるからな」

「ううー…!」

ようやく止まったブランコから降りた汰絽はふらふらと風太に寄りかかる。
すん、と鼻をすする音が聞こえ、風太は汰絽の背中をぽんぽんと叩いた。


「怖かったな。よしよし」

「う…っ、うっ…」

小さな嗚咽を漏らす汰絽に、むくと結之が傍に来る。
たあちゃん、大丈夫? 
そう尋ねてくるむくの頭を撫でた。


「たろ、すごくこわかったみたいだ。ごめんな、いじめて」

「ふうたいじわるだめなんだよ! たあちゃんいじめたらや!」

「ごめんごめん。むく、あそこ、滑り台だぞ」

「あっ! ほんとだ!」

だっと駆けていくむくと結之にほっと息を吐く。
汰絽の背中を優しく叩きながら、風太はそっと小さな体を抱きしめた。

涙がおさまったのか、汰絽がそっと風太から体を離す。
恥ずかしそうに俯きながら、ため息をついた。


「ごめんなさい、みっともなく泣いちゃって」

「いや。別に。怖かったんだろ」

「…はい」

風太の優しさに、汰絽はこくりと頷いた。
泣いたおかげで妙にすっきりとしている。
目元をパーカーの袖で拭いて、汰絽は笑顔を作った。


「もう少ししたら…、むく達がこちらに来たら、お昼にしましょう?」

「おう。お前の作ったものうまいから楽しみにしてたんだよな」

そう言いながら、ベンチへ戻る風太の後を追う。
小さな声でありがとう、と呟いて、汰絽は微笑んだ。
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