子供体温
「そんな緊張すんなって。なんもしねえから」
「なんも…? 何もって、何かあるんですか?」
「い、いや…。あ、お前って…、猫バスにそっくりだな…」
「…トトロ」
「俺こんな肥えてねえから」
「あ、むく髪綺麗に乾いてるね」
「うんっ。風太にしてもらったよ」
「ゆうのもっ」
「良かったね。春野先輩、ありがとうございます」
「いいえ」
むくも結之も食べ終わったのか、ソファーに上ってきた。
それから、4人で静かにテレビを観賞する。
DVDもいいところに入ってきたら、むくと結之はうとうとし始めた。
こてん、と汰絽の腕に小さな頭が当たる。
「寝かせてきますね」
「おう」
風太に一言伝え、むくと結之と手を繋ぐ。
歯磨きしようね、と、洗面所へ向かった。
ふたりの歯磨きが終わってから寝室に入る。
2枚並んだ布団を見て、むくはいつも汰絽と一緒に使っている方へ入り込んだ。
「むく、たろはあっちにいるけど、大丈夫?」
「ん、へーきだよ…」
「わかった。むく、ゆうちゃん、お休みね」
「んーん…おやすみのちゅーは?」
「あ、うん」
きゅっと目を瞑ったむくの額にそっと口付けた。
結之にもねだられて、汰絽はそっと結之の額にも口付ける。
ふたりの頭を撫でてから、電気を消して、部屋を出ていった。
「寝た?」
「はい、すぐに寝付きましたよ」
「疲れたんだろうな」
「楽しかったからですね」
リビングに戻り、風太の隣に腰を下ろす。
DVDはもうすぐ終わるところだ。
妹を探しに不思議な生き物へ会いに行く途中。
風太が真剣に見ているを見て、汰絽も同じようにテレビを見つめた。
「この話、むくがすごく好きなんです」
「通りで嬉しそうにしてたわけだ。…たろも好きなんだろ?」
「はい、僕も好きです。暇なときは、むくとふたりでよくみてます」
訪れた沈黙に、ふたりは静かにテレビを見つめる。
妙な雰囲気になって、風太はありきたりな質問を汰絽にぶつけた。
「たろ、彼女いる?」
「へ? い、いませんよ。恋人とか、そういうの、あんまり考えたことないです」
「へえ、そうか」
「春野先輩は? いっぱいいるんですか?」
「前に、クラスの人が話してるのを聞いて。…春野先輩は、恋人のお友達がたくさんいるって話してましたよ」
「いや、別に、いないからな。…恋人のお友達ってなんだよ」
「そうなんですか? …ん、ふあ…」
「眠そうなだな。…寝るか。お前温かそうだから抱き枕だなー」
ゆったりとした会話をしつつ、テレビを消して寝室へ向かった。
寝室へ入ると、穏やかな寝息が聞こえてきて、静かになる。
先に汰絽が布団に入り、風太も布団に入った。
むくと結之は手を繋ぎながら眠っている。
汰絽と風太は背中合わせになりながら、目を瞑った。
「たろ、そっち向いていいか?」
「なんで…ですか…?」
「お前の背中、なんかあったかい」
「えー…? かまわないです、ごじゆうに…」
小さな返事の後、風太は体の向きを変えた。
それから小さな体を抱きしめて、汰絽の頭の下に腕を通す。
「ふにゃうっ」
「うおー、あったけー」
「くっ、息、くすぐったっ…」
「お、悪い悪い。にっしても、子供体温だな、お前」
「先輩も結構あったかいです…っ、ふあぁ…」
「よしよし、もう寝ちゃいな」
「ん…」
次第に瞼を閉じて眠りについていくのを感じて、風太も目を瞑る。
汰絽の子供体温はやけに心地よく、すぐに眠りについて行った。
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