おかえり、ただいま
学校からの帰り道にやっと咲いた桜は、今年は早く咲き早く散り始めていた。
風に吹かれひらひらと振ってくる桜の花びらに大きく息を吸い込んだ。
それから深呼吸をして前を向く。
桜の花びらがひらひらと舞い落ちる中、汰絽は笑顔を浮かべる。
目の前には背の高い背中が見えた。


「風太さん」

不意に名前を呼べば、振り返り視線が交わる。
綺麗な青い瞳は、空の色をしていた。
あんなに綺麗な瞳があるなんて、汰絽は生まれてからこの人に出会うまで知らなかった。
キラキラと汰絽を写すその瞳は、まっすぐに汰絽を見つめていた。


「汰絽」

同じように名前を呼び返されて、汰絽は微笑んだ。
立ち止まった風太のそばに行けば、風太が優しく頭を撫でてくれる。


「どうした、そんなにニコニコして」

「んー、幸せだなって、1年前は、ひとりで帰り道歩いていたから」

「そうだな。俺は学校もさぼり気味だったからなあ」

「ふふ、悪い人ですね」

肩を寄せ合い笑っていると、幼稚園から明るい声が聞こえて来る。
むくの大きな笑い声が聞こえてきて、ふたりは少し足早になった。

幼稚園について、汰絽はドアを開けた。
ペタペタと可愛い足音が聞こえてきて、ふたりは前を向く。
駆け寄ってきた愛おしい弟の姿が見えて、目を細めた。


「おかえり、むく」

「ただいまっ」

駆け寄ってきたむくが汰絽に抱きついて、汰絽はむくを抱きしめ返す。
柔らかな頬が触れ合って暖かい。
先生と挨拶を交わしあい、3人で手をつないで帰り道に戻る。


「桜がすごいねえ」

「そうだねえ。むく知ってるよ。風太とあったの、桜がいっぱいなの」

「よく覚えてるな」

「えらい?」

「えらいね」

むくの頭を空いている方の手でなでる。
そうするとむくは嬉しそうに笑顔を見せた。
柔らかな髪が風に揺れ、桜の花びらとともになびく。


「あっ、風斗」

むくの声にふたりは前を向く。
視線の先にはスーツ姿の風斗が立っていて、手を大きく振っていた。


「おかえりーっ」

むくと一緒に汰絽は大きな声で家族の挨拶を叫ぶ。
風斗と同じように手を振ってからむくが駈け出すのを後ろから追いかけた。


「ただいま」

柔らかで優しい声に、汰絽はホッとした。
それからもう一度、


「ただいま」

もう、さみしくなんてないよ。
誰に言うでもなく、心の中で、小さく呟いた。

ほわほわララバイ end
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