ただいまの準備
雪が積もって、電車も停まってしまうくらいに冬が深まった。
汰絽も風太もみんなが一年の締めくくり向かって過ごしている。
冬休み、大晦日も近づいてきていた。
そんな中、春野家では静かに家族を迎える準備を続けていた。


「風太さーん、風斗さんのお部屋のお掃除終わったので、家具戻しましょー」

「おーう、むく、危ないからこっちで待ってな」

父の部屋を掃除していた汰絽の呼ぶ声が聞こえ、風太はむくを抱えたままその部屋へ向かった。
むくを最初に戻しておいたベッドに下ろして、風太は部屋を見渡す。
綺麗になった部屋は、早く住人を迎え入れたいくらいだった。


「おーさすが、仕上げはお前に任せてよかった」

「ふふ、お褒めの言葉光栄です。あとは家具の位置戻すだけです。早く明日になってほしいなあ」

「そうだな。よし、そっち持って」

「はい。せーの」

「よっ」

ふたりで父が元の家でも使っていた机を運んで窓際に置く。
窓から入った雲間の日差しが少しだけ暖かくテーブルを照らした。


「布団も本当はお日様の下で乾かしたかったんですけど、やっぱこの時期には難しいですね」

「そうだな。親父喜ぶよ。お前がそんなにウキウキしながら準備してるの知ったら」

「ふふ、喜んでもらえれば僕も嬉しいです」

そう言いながらテーブルの前に、古いイスを置く。
イスを置いてから、ダンボール箱に入った本を本棚にしまった。


「これが終わったら、夕飯食べて、ゆっくりしような」

「お腹減ったー」

むくの声が聞こえてきて、風太と汰絽は顔を見合わせて笑った。
それから、先にご飯にしましょうか、と微笑んだ汰絽に、風太はむくを抱えて立ち上がる。


「今日の夕飯は昨日から仕込んでたビーフシチューですよ」

「やったー」

「汰絽の作るビーフシチュー美味いからな」

「幸せ?」

「幸せだな」

後ろを歩く風太とむくの言葉に汰絽は笑いながら、部屋に入る。
静かだったリビングは暖かいあかりの中で賑やかになった。


「親父も仕事に復帰するけど、今度はお前もいるからちゃんと体調管理できそうだな」

「ふふ、もちろんですよ」

「俺もよろっと将来のこと本格的に考えないといけないし、来年はもっと忙しくなるだろうな」

そういう風太に汰絽はふと顔を上げた。
もう風太とともに過ごすようになって、だいぶ経つことに気づく。
それから、もう慣れきった3人での食事に、笑顔が浮かんだ。


「ふふ、なんか、まだ1年経ってないなんて嘘みたい」

「そうだな。でもあともう3ヶ月くらいですぐに1年だ」

「そうですね。…今度は、4人暮らしになりますね」

「おう。家族だなー」

「家族ですねー」

「家族っ」

スプーンを持ったむくがビーフシチューを口に含む。
美味しいとほっぺを押さえたのを見て、風太と汰絽はもう一度笑った。
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