帰ってきます
「急に電話してきて、なんだよ」

『電話しちゃダメかな、風太』

「親父の電話長くなるからやなんだよ。で、用件は」

『だいぶ手術してからだいぶ体調も戻ってきたから、そろそろ退院してもいい頃だって医者から言われてね』

「マジか」

無事に家に帰ってきてから一ヶ月経った。
休日に三人でリビングで昼寝をしている時にかかってきた電話に風太は衝撃が走った。
まだ、汰絽としたいこともできていないこの状況で、父親が帰ってくる。
嬉しさ半分の、複雑な気分が風太を襲う。
まだむくを抱きしめて眠っている汰絽をみると、ため息をつかざるをえなかった。


『なんだい、やましいことでもあるのか』

「んなことねーけど…、」

『そういえば、お前。汰絽君とはどうなの』

「は?」

『お前のことはなんでもわかるからね。汰絽君のこと、好きなんだろ』

風斗の言葉に風太は頭を抱えた。
ようはバレバレであって、帰ってきても生暖かい目で見られることは間違いない。
なおさら複雑な気分が押し寄せてきて、電話先にも聞こえるくらい大きなため息をついた。


「うわ、まじかよ、なおさら帰ってきてほしくねーわ。…最初から知られてた方がまだいいな、悪いけど、汰絽と付き合ってるから」

『よかったな。お前と汰絽君はきっとそうなると思ってたよ』

「父親のくせに反対しないんだな」

『反対してどうにかなる問題じゃないだろう。それはお前が一番よく知っているだろ』

「…まあな。そういうことだから」

そう言って風太は汰絽を見た。
ん、と小さな声を漏らしながら、体を起こす。
電話をしている風太を見て、汰絽がヘニャリと笑った。
手招きをすると、素直に近寄ってきた汰絽を抱きしめ、膝の上に乗せる。


「親父が帰ってくるって」

「本当ですか?」

「電話かわるか」

「ん、かわる」

頷いた汰絽に電話を渡し、汰絽の肩に顔を埋める。
くすぐったそうに身をよじった汰絽に風太も笑った。


「風斗さん、帰ってくるって本当ですか」

『本当だよ。嬉しいかな?』

「嬉しいです! むくも喜びますっ」

『それは嬉しいな。私も可愛い息子たちと早く一緒に暮らしたいよ』

「はいっ。待ってます!」

嬉しそうな汰絽に少しだけ妬きながら、風太も小さく笑った。
それから体を離して、汰絽の頬にキスをする。
また嬉しそうな顔をした汰絽は、電話を風太に手渡した。


『私が帰ったら、お前だけの汰絽君が私の息子の汰絽君にもなるんだからね』

電話口で笑っている父親の姿を想像して、風太は苦笑いをした。
それから挨拶を交わしてから、電話を切った。
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