おかえり
「お、おかえりなさい」

俯いてそう呟いた汰絽に、風太は心の中が洗われていくような気がした。
ここが帰る家なのだ。
そう思い知った。
ぽたぽたと落ちる雫に、風太は汰絽が泣いていることに気づいた。


「たろ」

「もうどこにも、いなくならないでくださいね」

小さな声が震えながら囁いた。
くしゃくしゃな笑顔に、風太の胸が締め付けられる。
そっと手を伸ばして、汰絽を抱きしめた。


「ごめんな、心配かけて」

「ひっ…っ」

「泣かせてごめん」

「っ、僕、ひどい、んですっ」

「え?」

「あなたが、僕だけの、人になれば、いいのにって、あなたの家族だった人なんて、いなくなっちゃえばいいのにってっ、そんな風に思ったんです…っ」

喉を詰まらせながら、そう泣き叫ぶように小さな声で告げられて、風太はぐっと息を飲み込んだ。
腕の中の汰絽が小さな体を震わせている。
いつもなら素直に抱きしめ返してくれる腕が、回ってこない。
風太は思わず汰絽を抱きしめる腕に力を込めた。


「たろ、俺はお前のものだよ」

そう囁けば、汰絽がなおさら涙を流すのを感じた。
背中に回ってきた細い腕が強い力で抱きしめ返してくれる。
その力に、帰ってこれてよかった、そう思った。


「お前にそんな風に強く思われて嬉しいよ」

柔らかな猫っ毛を撫でて、キスをする。
リビングのソファーの上で眠るむくの泣き声が聞こえてきて、ふたりは体を離した。
あ、と小さな声を汰絽が漏らしたのを聞いて、風太は汰絽に笑いかける。


「早く行かないとな」

そう言ってふたりはむくのところへ行く。
うんと手を伸ばしてきたむくを汰絽が抱き上げて、宥めるのを眺めた。


「お前がどんな思いを俺に抱いたとしても、それも全部受け止めるから」

小さな声で汰絽に聞こえなくてもいいと思いながら呟く。
むくをあやす姿をなおさら愛おしいと思った。

また一難? end
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「見えない臓器の名前は」
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