おかえりって言いたい
「とりあえず、汰絽、お前今日は休め。そんなんじゃむくも心配するし、春野を探してるうちに倒れるだろ」

「あ…、確かに、でも、風太さん、が」

「いいから」

「…たぁちゃん」

「俺がむく見てるからゆっくり休め」

東条に促され、汰絽は頷いた。
それから、僕がソファーで寝るので、この前みたいに僕の部屋で寝てくださいと呟く。
部屋で寝ろよ、という東条に汰絽は首を振って笑った。


「ここにいれば、帰ってきたらすぐわかるから」

「…わかった。風邪ひかないようにしろよ。それからなんかあったらすぐに呼べ」

「はい…、ごめんなさい。迷惑、かけて」

「お前らしくないこと言うな。さっさと寝て万全にしなきゃむくが不安がるだろ」

「ふふ、そうですね…。東条さん、本当にむくが好きなんですね…」

「当たり前だろう」

そう言って笑った東条に少しだけ気が晴れた。
むくを抱いた東条がリビングを出て行くのを見送ってからソファーに横たわる。
ソファーに横になると疲弊していた心に体が追いついたようで、ぐったりと力が抜けた。
いなくなってしまった風太の温もりが恋しくなって、寝返りを打つ。


「約束、ちゃんと守れてないですよ」

そう呟いて、毎日撫でてくれていた髪を自分で撫でながら、汰絽はそっと目をつむった。
こうしなきゃ寝れないだろうと言って抱きしめたのは風太さんなのに。
身体が疲れすぎていてうとうとと眠りへ向かう意識の中、最後にそう思った。


結局ぐっすり眠る事も出来ず何度も玄関に行ってしまった。
帰ってくるんじゃないかと考えると、玄関の前から離れられない。
一時間近く、玄関で座って待って、戻った。


「おはよう」

「おはようございます。朝ごはん、作ったので」

とんとテーブルに並べられたのはいつも通りの朝食で、東条は汰絽の様子を眺めた。
少しは眠れたのか、昨日よりはまだ顔色が良くなっている。
ぎこちないが、少し笑顔を見せてくれたことに、むくは安心したのか汰絽と同じような笑みを浮かべた。


「そういえば、最近変わったこととか、なかったのか」

「…あ」

小さく声を漏らした汰絽は言っても良いのか迷う表情を見せてから頷いた。
思い出したのは、圭十が持ってきた手紙。


「あの、風太さんのお家の事情って、知ってますか」

「あぁ、それとなく。親経由で知ってる」

「風太さんのお母さんから、一緒に住まないかって手紙が来て、それを断ったんですけど…」

「そういうことか。春野の居場所が分かった」

「えっ」

食器をじっと見つめていた汰絽は大きく顔を上げて、東条を見た。
その表情の中には少しの不安と、期待が入り混じった複雑な表情だった。
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