美味しいご飯
「なんだ、すげぇうまいな」

「たぁちゃんの作るごはんは世界で一番美味しいんだよ!」

口いっぱいにカレーを食べるむくを見て、壱琉は笑った。
むくの隣に座った汰絽がタオルで拭き取る。
むくは嬉しそうに汰絽に笑いかけた。


「お風呂はいってこようか、むく」

「いちるとはいってい?」

「東条さんさえよけれいいよ、聞いておいで」

「うんっ。いちるっ、一緒にお風呂はいろーっ」

自分の足元から走って行ったむくの後ろ姿に、また寂しさを覚えた。
ため息をついてから、ソファーに腰を下ろす。
ソファーに先に座っていた風太が汰絽の肩をポンと叩いた。


「なんかむくがいつもと違うな」

「いつもよりはしゃいでるみたいです」

「な、結之と遊んでる時とか、俺らといる時と違うな」

「今日はむくもよく眠れそうです」

「そうだな」

嬉しそうに東条の足元をくるくると回るむくを思い出しながら、汰絽が小さく笑う。
その声が少しだけ穏やかで嬉しさを含んだことに気づき、風太も微笑んだ。
廊下から賑やかなむくの声が聞こえてきて顔を見合わせる。


「風呂ありがとな」

リビングに入ってきた東条がむくを抱きかかえている。
抱きかかえられたむくはその手に猫のぬいぐるみを持っていた。
むくのお気に入りの人形は家にいる時の大事なお友達だ。

リビングのカーペットにむくを下ろした東条は汰絽にお礼を言いながら、むくの隣に腰を下ろす。
むくはすぐに東条の膝に座り、東条を見上げた。


「ふふ、いちとお泊まり嬉しい」

「そりゃ良かったな」

東条はむくを抱きしめながら笑った。
その笑みがとても優しくて、汰絽は少しだけ驚く。
こんなに優しい顔もできるのか、そう思うと、もしかしたら自分が思っているよりもずっといい人なのかもしれない。


「もうこんな時間か、そろそろ寝なきゃだな」

「むく、いちと一緒がいい」

「俺はむくが喜ぶならそれでいいよ」

東条の言葉にむくは満面に笑みを浮かべた。
それからぎゅっと東条に抱きつく。


「どうしましょう。むくと僕の部屋で寝てもらいますか」

「そうだな。むく、もう遅いから東条と部屋に行きな」

「はーい」

東条の膝の上から立ったむくが東条の手を引く。
部屋へ向かっていくふたりの後ろ姿を見送ってから、汰絽は風太を見た。


「お部屋に泊まってもいいですか」

「喜んで」

内緒話をするように笑いあってからふたりは風太の部屋に向かった。
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