眠れない
「今日はむくだけ幼稚園か」

「そうですね」

「ふたりきりか」

「…」

かっと赤くなった汰絽に、風太はニヤリと笑う。
カーペットに座って洗濯物をたたんでいる汰絽は風太をちらりと見てからバッと視線を逸らした。
意識している様子に思わず笑い声が漏れて、それから風太はソファーから下りて汰絽の隣に腰を下ろす。


「汰絽」

甘く低い声で名前を呼べば、洗濯物をたたむ手を止めてこちらを向く。
そっと頬に手を添えれば、汰絽はゆっくり目を瞑った。
唇を重ね舌先で唇をなぞれば、くすぐったそうに身をよじる。
ふわふわの髪に指先を差し込み撫でれば、汰絽が笑った。


「ふふ」

「何笑ってんの」

「ん、だって、風太さん甘えん坊さんみたいだから、可愛いなって」

柔らかい声に風太はもう一度笑った。
今度はこどもがするみたいなキスを送り合って、風太も洗濯物に手を伸ばす。
ゆっくりふたりでたたみながらくだらない話をした。

圭十とあってから、風太は時折寂しさの片鱗を見せるようになった。
それはほんの些細な誰も気づかないくらい小さな様子だったけれど、汰絽はその寂しさが辛い。
自分に触れて、少しでも風太の寂しさが軽くなるのなら、そんな風にさえ思う。


「膝貸して」

「柔らかくないけれどどうぞ」

「んー俺専用の枕だな」

ふわっと太ももに頭を乗せてきた風太に小さく笑いながら、汰絽は洗濯物をたたむ手を止めた。
それから風太の白髪を指で梳く。
窓から入る日差しが寒くなった日々には暖かくて、ウトウトとする。
汰絽の優しい指先が心地よくて、眠ってしまいそうだった。


「眠っても、いいですよ」

「いや、せっかく、お前と…」

「最近、眠れてないんですよね」

「なんで知ってんの」

眠たそうな風太の声に小さく笑い、汰絽はまた風太の髪を梳く。
さらさらになっていく髪が指の間を通っていく感覚が気持ちよい。


「だって、夜ドアが開く音が聞こえるから」

「お前そんな時間まで起きてんの」

「まあ、それは後で話しましょう、ね?」

汰絽の優しい声にまた眠気が襲ってくる。
柔らかな声がまるで子守唄のようだった。
次第にその声も遠のいていき、最後に残ったのは汰絽の温かい手の感触だけだった。



「うわっ、寝てた」

「ぐっすりでしたね」

「お前の膝すげえわ…、よく寝れた」

身体をひっくり返して、汰絽の太ももに顔を埋める。
汰絽がくすぐったそうに笑うのを聞いて、風太も笑った。


「足痺れてて、笑いが」

「俺どんくらい寝てた」

「んと、一時間くらい」

「マジか、悪い」

「いいえ、ゆっくり眠れたようでよかったです」

そう言って笑った汰絽が愛おしくて、風太は起き上がってぎゅっと抱き締めた。
小さな身体が嬉しそうに揺れたのを感じて、愛おしさが増す。


「お前なんであんな時間まで寝たないの」

「なんか、むくの寝つきが悪くて…」

「むくが?」

「聞いても本人は何も気にしてなくて、よくわからないんです」

「そうか。…なんだったら、今日一緒に寝てみるか? 俺もお前のそばの方が寝れるだろうし」

風太の言葉に汰絽は小さく笑って頷いた。
ポンポン、と大きな手のひらが頭を撫でてくれて、嬉しくて汰絽はもう一度笑った。
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