知っているよ
「俺のこと、教えたから君と君のとなりの可愛い子のことが知りたいな。教えてくれる?」

「あ、…えっと、どこからいえば?」

「そうだね。おじさんから君たちがなんで一緒に住んでいるのかは知っているから、そこからでいいよ」

「えっと、はい。僕が汰絽です。むく、ご挨拶できる?」

「んっ。はるのむく、さんさい!」

「お、いい子だね。ありがとう、むく君。俺のことは圭十って呼んでね。…汰絽君もね」

「はーいっ」

いい返事をするむくにつられて汰絽も頷く。
圭十の隣に座る風太は少しだけ不機嫌そうに腕を組んだ。
そんな風太に汰絽は少しだけ面白くなって笑った。


「汰絽君の女装姿、とっても良かったよ。来年も期待してる」

「うわぁ…嫌なところ見られちゃったんですね…。期待されてもうれしくないです…」

「はは、でもまぁ、来年も多分出ることになるよね、ふう君」

「さぁな。…断れよ?」

「もちろんですよ」

むっとしながら断言する汰絽に、圭十が大きな声で笑う。
隣に座って、離している姿を見ていると、性格の違いからか似ていないように思えてきた。
しかし何度も二人を見比べてしまうくらいにはそっくりだ。
ただ容姿で違うのは髪色と目つきの鋭さくらい。
目つきの鋭さは性格から来るのか、同じ形をしていても風太の方が殺伐としていて、圭十の方がさわやかさを感じるようだ。
そんな風に談笑していると、ふと静かになる。
それから、風太が思い出したように、圭十に声をかけた。


「で? お前なんで来たの」

「あ、そうそう忘れてた。…静子さんからの伝言預かってきたんだ」

「…っ」

急に表情を変えた風太に、汰絽はビクリと肩をすくませた。
今までに見たことのない表情に、むくも笑顔を消している。
その表情は、苦しそうな、それでいて怒りが強いような、言い表せられない表情。


「ぼく、外しましょうか」

むくの手を握り風太に問いかけると、はっとしたように風太はふたりを見た。
汰絽の心配そうな表情に、風太の顔も少しだけ穏やかになる。


「いい。…ここに居ろ」

「はい。…その前にお茶でも入れていいですか。…圭十さん、紅茶とコーヒー、あと炭酸がありますけど、何がいいですか?」

「ありがとう、汰絽君。紅茶でお願いします」

つないだ手を離してから、風太に笑いかける。
汰絽の柔らかな表情に、詰めていた息を吐き出しここに居て欲しいことを伝えられた。
一息つけるように、汰絽は圭十に声をかけてから飲み物を淹れに席を立った。


「どうぞ」

「どうも」

圭十の前に紅茶を差し出し、風太にはコーヒーを出した。
むくにはリンゴジュースを渡し、自分の前にはミルクと砂糖の入ったコーヒーを置く。
風太はコーヒーを好むけれど、圭十は紅茶が好きなのかと思いながら、汰絽は腰を下ろした。
コーヒーを飲んだ風太は圭十にすっと手を差し出す。
圭十も風太の意図を組んだのか、すぐに鞄の中から華やかな封筒を渡した。


「…」

封筒を受け取った風太はご丁寧に施された封蝋を見つめた。
開けたくない気持ちと、開けなければいけないことに苛立ちを感じる。


「あ、圭十さんって紅茶お好きなんですか」

汰絽の明るい声に風太は、封蝋から視線を逸らした。
気を使って開けやすい雰囲気を作ろうとしているのがわかって、風太は苦笑する。
その気転にほっとしながらも、汰絽の声に耳を傾けながら封筒をもう一度見た。


「ああ、紅茶好きなんだ。…この紅茶美味しいね。どこで買ったの?」

「友人からもらったので、どこで買ったのかわからないんですけど…」

風太は手紙をトントンと机の上で叩いて、中身を下に落としてから指先で封筒を切っていく。
汰絽の柔らかな声と、圭十の声を聞きながら封筒を開けていくと、まだ気持ちが穏やかでいれた。
以前の自分とは違う。
そう思えば、びりびりと破れていく音も不快ではなくなるような気がした。
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