こどもも好き
「…春野先輩、ありがとうございます。…むく、楽しい?」

「ん。むく楽しい、風太すきっ」

「ふふ、よかったね」

風太の腕から降りたむくと手を繋ぐ。
結之も下ろしてもらい、汰絽を不安そうに見上げた。


「ゆうちゃん、お泊りオッケーだって」

「ほんと…?」

「うん、本当だよ。よろしくね」

むくと繋いでいない方の手を差し出す。
小さな手がおずおずと伸びてきて、汰絽は微笑んだ。


「もう暗いから送る」

「え、あの…」

「お前が通ってた道、結構危ないから」

「じゃあ、お願いします」

風太の申し出に、汰絽はこくん、と頷いた。
そんなふたりに、むくは嬉しそうに笑う。


「ふうたもお泊りなの?」

「んーん。むく、違うよ。お家まで送ってもらうの」

「風太もお泊りがいいよぉ」

「だぁめ。先輩もお家に帰らなきゃなの」

「…えぇー…」

むくの悲しそうな声に、汰絽も悲しそうな顔をした。
2回目のわがままは叶えることはできない。
ぷく、と膨らんだ頬を見て、汰絽はごめんね、と零した。


「お前さえよければ、泊まるけど」

「え?」

「あー、お前が良ければ、な。むくの我儘聞いてやってもいいって言ってんの」

「…だって、あの、知り合って間もないのに…、嫌じゃないですか?」

「いや? どうして。俺は猫も好きだが、子供も好きなんだよ」

「じゃ、じゃあ、よろしくお願いします」

風太の言葉に、汰絽は頭を下げた。
めったに聞けないむくのお願いは、何としてもかなえてやりたい。
そんな思いから、汰絽は風太に心から感謝した。
隣で白熱した会話を繰り広げていた好野と杏が振り返る。


「あ、よし君、むくと遊ばなくていいの? もう、帰るけど…」

話がまとまって、好野に声をかける。
好野は杏に一言いれて、汰絽から離した手をうんと伸ばしたむくを抱き上げた。


「むくちゃああん」

「よしくんだあ」

「むくちゃん、汰絽をよろしくね」

「ん! まかせて! むくね、ゆうちゃんとカラフルレンジャーなんだよ!」

「うはあ、かわええ」

好野の頼みに、むくはえいっと好野に拳を見せた。
結之もおんなじようにしていて、汰絽は小さく笑う。
微笑ましい光景に耐えきれず、好野はむくの柔らかい頬に頬ずりをした。
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