ふ、ふたり?
玄関に立っている男を見て、風太はああ、と思わずため息を漏らしてしまった。
自分の周りにはどうしてこう、過干渉というか、知りたがりが多いのだろうか。
ニヤニヤと嫌な笑みを浮かべる悪友を思い出して、舌打ちしたくなる。


「大丈夫か」

腰を抜かして、風太と玄関に立つ男を見比べる汰絽に手を指し伸ばす。
ぎゅっと掴んだ手を引きあげて立たせると、汰絽がえっと声を漏らした。


「まあ、驚くよね。それより、ふう君、この子に俺のこと教えてくれてないんだ」

「別に教える必要もないだろ。滅多に会うこともないし、つか会う用事もねえだろ」

「はは、それもそうだ」

何事もなかったかのように汰絽の目の前で話すふたりに、汰絽はますます頭にはてなマークを浮かべる。
目の前で何が起こっているのか、よくわからない。


「たぁちゃん?」

部屋の奥からパタパタと可愛らしい足音と呼び声が聞こえて、汰絽はそちらへ視線を移した。
玄関にやってきたむくは、三人を見上げて汰絽のようにあんぐりと口を開けて驚く。


「わあ…ふうた、いっぱい…」

むくの一言に汰絽も思わず頷いてしまい、もう一度、ふたりを見比べた。
風太はそんな様子のふたりに苦笑しながら、風太にそっくりな男を部屋の中に招き入れる。
中に入っていくふたりを見て、汰絽とむくは顔を見合わせた。


「とりあえず、俺から自己紹介しようか」

ダイニングテーブルを囲んで、風太の隣に座った男を眺める。
横から見ても少し下から見ても、どう見ても風太にそっくりなその男に、汰絽は変に感心を覚えた。
ドッペルゲンガーもいるもんだ、と頷いてしまう。


「たろ、聞いてるか」

「あっ、ごめんなさい」

風太にいぶかしげに声をかけられて、はっとする。
隣のむくを見ると、きらきらと目を輝かせていた。


「じゃあ仕切りなおして。どうも、春野圭十、ふう君のいとこです。ちなみにおじさん、風斗さんの弟の息子ね」

「圭十さん…」

「俺としては、君のことはよく知っているんだけど、君は俺のことまったく知らないみたいだね」

「ごめんなさい」

「たろ、謝らなくていい。こいつ意地が悪いから」

風太がため息をつきながら汰絽に言うと、圭十はさわやかに笑った。
対照的な表情を浮かべるふたりに思わず気が抜ける。
風太にやる気、元気、さわやかさ、好青年さがあればこんな風になるのだろうか、と心の中で考えてしまった。


「俺も一応、君と同じ学校に通ってるんだよ」

「えっ?」

「しかも特文。ふう君と同じ学年」

「えぇっ、体育祭の時、いなかった…」

「いたよー。まぁ、生徒会席にいたから多分わかんなかったのかもしれないね」

「…一外から聞いてたけど、お前ほんとに学校のことに疎いんだな」

今日になってから何回も見た風太のため息をつく顔に、汰絽もため息をつく。
自分の鈍感さ、うとさにはあきれてしまう。
こんなにも風太にそっくりな存在が居ることなんて知らなかったし、考えもしなかった。

そもそも、汰絽はクラスメイトを覚えるのに手いっぱいなのに、上級生まで覚えていられなかったようだ。
風太はそんなことを思いながら、隣に座る圭十を見る。
自分が生まれてから今まで一度も、いや、今後一生浮かべることがないであろう、きらきらと輝く表情をしているいとこに、もう何度目かもわからないため息をついた。
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