おやすみ
子どもみたいに泣いた汰絽を抱きしめて宥めてから、ベッドに入った。
自分を求める汰絽を見ていると、愛おしさが増した。
家族であり、兄であり、それでいて恋人。
汰絽に対する自分の役割、すべてを満たしたい。
そんな思いが沸き上がってくる。
「あー…、可愛い」
今頃むくを抱きしめて眠る汰絽を想像する。
明日、ふたりにお土産を渡したらどんな反応をするのか、いろいろ考えている自分に恥ずかしさを感じ咳払いをした。
部屋に戻った汰絽はむくの眠る温かい布団に入る。
泣いた後でもうとても眠たくて、汰絽は鼻を啜った。
眠たい、と呟いてから、むくを抱きしめて布団をかける。
「…泣いちゃって、恥ずかしかったな…」
小さな声でもう一度呟いてから、汰絽はゆっくり瞼を下ろした。
むくの温かさが心地よくてすぐに眠りについた。
「ふうたおはよー!」
リビングでコーヒーを飲んでいると元気の良い声が聞こえてきた。
駆け寄ってきたむくを抱き上げると後から汰絽が入ってくる。
ほっとしたような表情の汰絽に、風太も同じようにほっとした。
「風太さん早起き」
「なんか目が覚めてな。朝ごはん作ったから温めなおすか」
少しだけムスッとした汰絽に笑い、風太は汰絽の頭を撫でる。
その大きな手のひらにきゅんっと胸が高鳴った。
「汰絽、今日どっか行きたい?」
「いえ、風太さん帰ってきたばっかりだから、ゆっくりしましょう?」
「そうだな。…お土産も開けたいし?」
「う」
笑い声が部屋の中に響き、むくは目をキラキラと輝かせた。
寂しそうだった汰絽の笑顔が嬉しい。
風太の作った朝ごはんを食べて、三人はソファーに座った。
「むく、これもやるぞ」
「ありあとー!!」
「たろにはこっち」
「タルト〜! ありがとうございます。…僕、このタルト大好きです」
「喜んでもらえて何より。3時のおやつに食べるか」
「はいっ」
魔よけの人形を貰ったむくはそれをぎゅっと抱きしめて、笑みを浮かべた。
タルトを見て喜んでいる汰絽にぬいぐるみに笑いかけているむく。
そんなふたりに幸せを感じた。
ふたりが喜んでいる姿を眺めているとチャイムの音が聞こえる。
お土産をテーブルに丁寧に置いた汰絽が、出てきますね、と言いながら玄関へ向かっていった。
「土曜日に誰だろうなー」
「な〜?」
自分のマネをしてくるむくを風太は笑いながら強く抱きしめた。
それからむくの脇の下くすぐり、ふたりで遊ぶ。
きゃっきゃと笑うむくにくすぐりを続けていると玄関から汰絽の悲鳴が聞こえてきた。
「汰絽っ!!」
玄関に駆け寄ると腰を抜かしている汰絽と、予期していない客人が立っている。
さわやかな笑顔を浮かべているその男に、風太は嫌な予感が胸をよぎった。
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