お帰りなさい、ありがとう
『先輩たち、こっち着くの遅くなりそうだね』
「うん。ちょっと寝ないで待ってみようかなって思ってるの。明日、お休みだし」
『そうだな。…あ、俺はそろそろ寝るよ』
「ん、わかった。よし君、おやすみなさい」
『おやすみ』
通話が切れる音に、汰絽はベッドで眠るむくを見た。
すやすやと眠るむくは、幸せそうな寝顔をしている。
そんなむくに目を瞑ってしまいそうなくらいの眠気が誘われた。
待っていようと思ったからには、待っているつもりだ。
帰ってきて寒い思いをしないように、リビングを温めておこうと汰絽は部屋を出る。
リビングの暖房をつけて、汰絽はお湯を沸かした。
沸かしたお湯をポットに入れて、温かい紅茶を淹れる。
「まだかな」
思わず小さく呟いてしまって、汰絽は口を覆った。
風太が帰ってくることがとても嬉しい。
汰絽はたくさん話を聞きたいし、もっと写真も見せてもらいたい。
初日に送ってもらった写真画面を開いた。
「写真写り、悪い…」
笑おうとしたのか少しだけ口角をあげて目を瞑っている。
モデルである杏はさすがに綺麗に笑みを浮かべ写っていた。
旅行中に何度か送ってもらった写真はどれも目を瞑っているか、振り向こうとしていたり顔を向けようとしている。
風太の新たな一面に笑わずにはいられなかった。
「あっ、そろそろかな」
携帯の時計を見ると風太が言っていた時間になっている。
一緒に暮らすようになってから、初めて離れて眠った夜。
少し離れていた時間が胸を締め付け、これから会う風太を思うと心臓がいつもより早く働いた。
鍵を回す音が聞こえ、ウトウトとしていた汰絽はハッとした。
玄関へ駆けていくとキャリーバッグに手をつき靴を脱ぐ風太がいる。
キュッと胸が締め付けられて汰絽は小さな声しか出せなかった。
「おかえり、なさい」
「ん?……ただいま、汰絽。待っててくれたんだな」
コクリとひとつ頷くと、風太が頬を緩め優しく笑った。
その笑みにポタポタと涙がこぼれ始める。
初めて離れる夜は寂しくて、不安がたくさん積もっていたことを思い知った。
「汰絽、寂しかったな。よしよし」
風太の力強い腕に抱きしめられて、声を上げて泣く。
無事に帰ってきてくれて、ありがとう。
そう伝えるのはまた時間を置いてからになりそうだった。
風太の大きなてのひらが汰絽のふわふわの髪を撫でる。
優しい手つきにまた涙がこぼれた。
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