ホームシック
首里城の見学を終えてから、ホテルに戻ってきた。
ホテル内の大広間でレクリエーションを行い、食堂で夕飯のバイキングを終えてから、残りの時間は自由行動となり風太と杏は部屋でのんびりと過ごしている。
静かなホテルの部屋は、窓を開けると波の音が聞こえてきた。


「暇」

「そうだな」

「そういや、首里城に特文いたじゃん」

「ああ」

「特文に風太にそっくりな人いたけど」

へえーと返事をしながら携帯を見ている風太は返事をする気がないのか、ゆっくりと歩いて窓を開けてベランダに出る。
波の音を聞いていると、なんとなく落ち着いていった。
海では同級生が何人か遊んでいる。


「…電話、すっか」

時間的には、もう汰絽とむくは風呂を済ませ、のんびりしている頃であろう。
そう思い風太は携帯を開いて汰絽のページを呼び出した。
通話ボタンを押して、耳元に近づける。
2コールで、汰絽は出た。


『も、もしもし、こんばんは』

「こんばんは。…今何してた?」

『お風呂から上がって、テレビ見てました。…風太さんは?』

「全部済ませて自由時間。部屋でのんびりしてた」

汰絽が小さく笑う声が聞こえてきた。
生で聞く汰絽の声よりも、電話の声は少しだけ高めである。
その声が緊張しているのがわかった。


「むくは?」

『むくはテレビに夢中ですよ』

「はは。後でいいから、変わってくれるか」

『はい。あ、あの、あん先輩、大丈夫ですか』

「ああ、大丈夫」

杏をちらりと見てそう答えると、電話先の汰絽は安心したのかほっと息をついた。
優しいな、と思いながら、ベランダの柵に寄りかかる。
むくの髪を撫でて、微笑んでいる姿を想像した。
一緒に暮らしてから、初めて長く離れる。
ホームシックのようなものを感じて、風太は苦笑した。


「帰りてぇなぁ」

『ええー? まだ、一日目ですよ』

「会いたくない?」

『…ん。…我慢してたのに』

「はは、ごめんな。いやー、情けないな、俺も」

笑いながらそういうと、むくが風太、風太と聞く声が聞こえてきた。
まって、と小さく笑う汰絽の声に、ああ、と思う。
愛おしさはだんだんと積もってくるものなのだと、汰絽に恋をして気付いた。
電話先で戯れるふたりに、風太は微笑まずにはいられない。


「たろ、むくに変わって」

『はい、むく、どうぞ』

『ふうた! ふうたー!』

むくの大きな声が聞こえてきて、返事をした。
一生懸命に話すむくに笑う。


『ふうた、はやく、ただいまーして!』

「うん、なるべくな。どうした?」

『ふうたいないのやー! たぁちゃん、さみしーって』

「そっか。…帰ったらぎゅーってしてやる」

『うん! ぎゅーってしてね』

嬉しそうに笑い声をあげるむくに、風太はそっと目を瞑った。
潮風が頬を撫でて、髪を揺らす。
電話先はきっと寒くて、暖かく着込んでいるのだろうな、とか、いろいろなことを考えれば愛おしい恋人と家族に早く会いたくなった。
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