空の旅
「うわー、すげー…、はるのんなんで窓側譲ってくれたの」

「別に、窓の外見たってなんもないだろ」

「雲がありまーす」

「うっぜ」

座席に浅く腰掛け背もたれに埋もれる風太に杏は苦笑した。
ドリンクサービスで飲み物を配っているキャビンアテンダントからリンゴジュースとコーヒーを貰う。
風太のところにコーヒーを置いてから、杏はリンゴジュースを飲んだ。


「もう大丈夫なのか」

「まあね」

風太はそう尋ねてから、目を瞑り静かに眠りに入った。
そんな風太に思わず笑ってから杏も目を瞑る。
旅行先までまだまだかかる。


「じゃあ、特理降りろー。空港の中で点呼とった後にバスに乗って移動するからなー間違えても先に外に出るなよー」

間延びした声に生徒たちもゆるゆるとした返事をし、出口へ向かう。
風太は大きなあくびをしながら後に続いた。
きょろきょろとあたりを見渡す杏を見る。


「キョロキョロしてんじゃねぇよ」

「いやー、あっちとこっちじゃ全然違うんだなーって思って」

「…暑いしな」

「それなー」

空港の大きな窓の外は晴天だ。
まるで夏が終わる前のぐずぐずとくすぶっている暑さのよう。
風太は目を細めてみていると、前の生徒が足を止めた。
それに倣って杏と風太も足を止め、教員の声を聞く。


「汰絽ちゃん、今頃授業中なんだろうね」

「…だろうな」

風太は寒さに小さく身を縮めながら机と向き合っているだろう汰絽を想像して思わず笑った。



「汰絽、暇だな」

「うん。自習っていっても、することないもんね…」

間の抜けた汰絽の声に、好野は小さく笑った。
風太が居ないことが物足りないのか、汰絽は少し元気がない。
好野はそんな汰絽に笑いながら、鞄から飴を取り出した。


「…あの…さ、汰絽」

「んんー?」

「汰絽はさ、春野先輩がすごい夢持ってたとして、その夢をかなえるには自分と付き合っているとその夢がかなえられないってなったら…、どうする」

好野の突然の質問に汰絽は包装を開けようとした手を止めた。
それから考え込むように机を見つめる。
黙り込んだ汰絽に、好野は居心地の悪さを感じてつばを飲み込んだ。


「風太さんとお話しする。…せっかく、好きになってもらったから、簡単にお別れしたくないの。だから、お話して、納得できたら、お別れする。寂しくても、我慢する。…そうすると思う」

汰絽はそう言ってから、ぐずっと鼻をすする。
想像して悲しくなったのか、汰絽はゆるゆると息を吐き出して頷いた。


「そ…か、そうだよな」

「…よし君、大丈夫?」

「多分。…はは、汰絽、ありがとう」

ポンポン、と力の弱い手のひらで頭を撫でられた。
その手の弱さに汰絽は好野の顔を見る。
好野は何か思い詰めるような表情をしていた。
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