伝えたい
むくを寝かしつけてから、汰絽はリビングでひとりテレビをぼんやりと眺めていた。
ソファーの上で寝転がっていると携帯がチカチカと光る。
手に取ってみると、メールが届いていていそいそとメールを開いた。


「よし君だ」

小さく呟いて内容を読んでいると、杏と遊んだことや、汰絽の調子はどうかと尋ねる文が書かれている。
あっと思った時にリビングの扉が開いて、汰絽はそっちへ視線を向けた。
入ってきた風太は髪をタオルドライしながら、水を取りに行く。
メールの返信をしてから、汰絽は風太のもとに行った。


「たろ、何飲む」

「サイダーがいいです…」

「おう」

答えながら、サイダーを取り、コップの中に氷を入れてからそそぐ。
しゅわしゅわと音をたてるのを聞きながら、汰絽は風太の手を眺めた。


「僕、風太さんの手、好き」

小さな声でこそこそ話をするように言われ、風太はドキリとした。
汰絽の顔を見ると幸せそうにふにゃりと笑っていて、その溶けるような顔が愛おしい。
愛おしさがあふれ出して、ぎゅうぎゅうと抱きしめてやりたいと思う。

女と付き合ったことだってある。
その時はそんな風になんて思わなかった。
愛おしさが溢れて、意地悪したいとか守りたいとか、いろんな感情が自分の中にあったことさえ分からなかった。


「俺さ、ほんとお前のことが好きみたいだ」

そういうと、汰絽は幸せそうに笑った。


「…風太さん、あのね」

「なんだ」

「僕、風太さんのことが好きだって気付いた時に、よし君に相談したんです」

「そうなのか」

「…それで、あの…」

俯いた汰絽はもじもじとしながら、サイダーの入ったコップを指先で弄る。
水の入ったペットボトルをシンクに置いて、汰絽のつむじを見ていると汰絽はばっと顔を上げた。
それからすうっと息を吸ってから、風太をまっすぐに見つめて口を開く。


「よし君に、風太さんとお付き合いすることになった、って伝えてもいいですかっ」

真っ赤に顔を染めてそういう汰絽に、風太は思わず吹き出した。
口元を押えて笑い声も押えようとしていると、汰絽はもっと真っ赤になりながら握った拳で風太のお腹をぽかっと叩く。
うーっと呻いてから、顔をそらして汰絽はサイダーをちびちびと飲んだ。


「てっきり、もう言ったのかと思ってた。いいよ、言ってくれ。…俺も、杏と夏翔に言ってもいいか」

「…はいっ」

「サンキュ。じゃあ、明日の昼休みに伝えるか」

納得したようにいう風太に、汰絽は頷く。
頷いてからまたふにゃりと笑った。
幸せそうな顔につられ、こっちも頬が緩む。


「僕ね、風太さんと出会ってから、うんと泣き虫になったんです」

「確かに、たろはよく泣くもんな」

「むー。…だって風太さんが、甘やかすから…」

「そうだな。これからも、たろには泣き虫でいてほしい。泣いてたら俺が慰められるからな。まあ、俺が泣かすことの方が多いかもしれないけど」

そう言って笑った風太に、汰絽も小さく笑う。
風太との距離を縮めて風太を感じた。


「幸せすぎて、怖いな」

「怖い?」

「こわく、ないですか」

「今は幸せだからな」

ぽんぽんと頭を撫でられて、ほっとする。
このまま、毎日こんな風に過ごせていけたらな、って思った。
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