時間
「たぁちゃん、んまー」

「んまーね。むくはスクランブルエッグ好きだねぇ」

「ん、ん」

頬についた卵を指先で掬い、食べる。
前の席についた風太が笑う声を聞いて、むくが笑った。


「ふうた、んまー」

「んまーよ、むく」

風太が答えてくれたのが嬉しかったのか、むくは声をあげて喜んだ。
汰絽はむくの少し長めの髪を払い、むくに卵をあーんしてあげる。
ぱくっと食いついた可愛い小さな口元をもう一回拭いてからごちそうさまの挨拶をした。


「今日はどうする」

洗い物をする風太の隣で、洗い終わった皿を拭く。
風太に問いかけられ、どうしようかと考えていたら右足にむくが抱き付いてきた。
シンクと足の間に入ったむくは、汰絽の足の甲に座ってぎゅうっとしがみ付いている。
そんなむくに思わず笑うと、風太も汰絽の足元を覗き込むと笑った。


「むく甘えん坊だな」

「ひっつきむし〜っ」

「ひっつきむしか〜。むくもうちょっと待ってな。あと少しで終わるよ」

最後に平皿を洗った風太はぴっぴと手を払ってから、かけてあるタオルで拭く。
汰絽も風太から渡された皿を拭いて、同じように手を拭いてからむくの頭を撫でた。
むくのふわふわの髪は寝癖もなく綺麗な頭の形をあらわしている。
その綺麗な頭の形を感じながら、汰絽はふにゃりと笑みをこぼした。


「むく終わったよ」

優しい汰絽の声でむくはすくっと立ち上がる。
汰絽に抱き付いていたむくは、うんと手を伸ばして抱っこを強請った。
むくの要求に答えた汰絽はよいしょ、とむくを抱っこして、風太を見る。
風太は笑いながら、むくの頭を撫でた。


「今日はうちでゆっくりするか。むく、何したい?」

「つみき、する!」

「つみきか。いいぞー」

3人で一緒にリビングに行き、カーペットの上に腰を下ろす。
むくはソファーの隣に置かれたおもちゃ箱の中からつみきを両手いっぱいに持ってきて、汰絽と風太の前に座った。
つみきを積んでいくむくを眺めていると、不意に、無造作に横に投げ出していた手にぬくもりを感じた。
そのままそのぬくもりに包まれ、視線を移すと風太に手を握られている。


「たろの手、ちっちゃいな」

「風太さんの手がおっきいんですよ」

「そうかぁ? すげ、すっぽり収まるな」

「ふふ、」

汰絽の笑い声に、風太はきゅんとするのを感じる。
少し開かれていた指の間に自分の指を差し込み、上からぎゅっと握った。
ほんのりと頬が赤くなった汰絽に、そっと目を瞑る。


「ふうたねんね?」

「んー? ねんねしない」

目を開けると、むくがつみきを両手に持ったまま風太を見ている。
汰絽はくすくすと笑い、風太に少し近づく。
トン、と肩が触れ合って、汰絽の方をむくと、汰絽はむくに手を伸ばしむくの頬を撫でた。


「たぁちゃん」

「なあに」

「たぁちゃんのおてて、ぽかぽかねぇ」

「ぽかぽかねぇ。むくのほっぺもぽかぽかよ」

くすくすと笑いあうふたりを見て、ああ、幸せだなと思う。
ゆっくりと流れる時間に、慣れてきた自分にも心地よい感じがした。
汰絽の家に初めて泊まった時には、似合わないと思ったこの時間も今では愛おしくてずっとこの時間にいたいと思える。
握った手も、目の前の小さな小さな可愛い義弟も、ずっとずっと守っていきたいと思った。
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