キス
汰絽の呼吸が整ってから、風太はもう一回唇に触れるくらいのキスをする。
腕の中にいる存在への愛おしさがあふれ出してきて、このまま閉じ込めておきたいくらいだ。
ゆっくりと息をしている汰絽の髪を梳くと、泣き声が聞こえてきた。
「…っ、ん、うう、」
「どうした、キス、嫌だった?」
「ちが…ん…」
嫌だった、と尋ねながら、またキスを落とす。
汰絽の瞳からボロボロと涙零れていき、風太はその涙を唇で掬った。
あたたかなその涙の味はしょっぱい。
情緒が不安定な汰絽を抱き上げて、膝の上に乗せる。
ポンポンと背中を撫でると、汰絽はくたりと風太に身体を預けた。
「汰絽、聞いて。…もう我慢できそうにない」
「…っ、っく、…」
「こんなことした後に、言うのも、おかしいかもしれない。けど、俺は短気だから」
風太の優しい声に汰絽は涙を止めようと深呼吸する。
泣いている時に、涙を止めようとするのが難しいのはよくわかっていた。
それでも静かに、風太の話を聞こうと耳を傾ける。
「汰絽、好きだ」
小さな囁き声に、とめどなく零れた涙が止まった。
一瞬ぽかんとした汰絽は、聞き取れなかったのか、それとも理解できなかったのか首を傾げる。
真っ赤になった目元に、キスをして、背中を撫でた。
「聞こえなかった?」
「…っ、え、」
「汰絽が、好きだって言ったんだけど」
もう一度言われて、また身体中が熱くなる。
好きって言葉が、耳の中で木霊された。
「こういうことしたいって思う好き、何だけど、わかるか」
「…っ」
言葉が出ないのか、うつむいたり顔をあげたりする汰絽に風太は思わず笑った。
汰絽をぎゅっと抱きしめて、肩口に顔を埋める。
「汰絽、好きだよ。蜂蜜みたいな色の髪も、ちっちゃい手も、優しい声も、泣き虫なところも、全部、汰絽のことが好きだ」
「…、や、やだっ」
「やだ?」
「い、言わないで…、死んじゃいそう、」
風太にぎゅっとしがみついて、恥ずかしさを逃そうとしている汰絽に、風太はまた笑った。
汰絽の熱い身体に、風太は背中を撫でて息を零した。
「汰絽は、俺のこと好き?」
好きって言葉が分からなくなるくらい、好きって言われて汰絽はこくりと頷く。
あんなにも悩んでいたのが、もったいないくらいにあふれてくれる幸せな気持ちにきゅっと唇を噛んだ。
「俺も、汰絽の口からちゃんと聞きたい」
「やだ、」
「恥ずかしい?」
こくりと頷いて、風太の肩にこてんと頭を預ける。
風太の大きな手のひらが背中を撫でて、それから優しく髪を撫でられた。
抱き付いている腕に力を入れて、風太をいっぱい感じる。
力強い腕も、ほのかに香るスカッシュの香りも、白い綺麗な髪の毛も。
気付かなかったのがウソみたいに、好きだと感じる。
「好き…」
聞こえないくらいの小さな声で呟いたら、風太が返事をくれた。
このまま眠ってしまいたいくらい、離れがたく感じてしまう。
もう時計の針は頂点に集まっていた。
そっと身体を離して、部屋に戻ろうと風太に言われて下ろしてもらう。
ゆっくりと歩いてリビングを出て、風太の部屋の前で立ち止まった。
震える指先で風太の手を掴んで、引き止める。
大きな手のひらは手を握り返してくれて、ほっとした。
「汰絽、俺と付き合ってくれるか」
静かな廊下の中で、確認するように風太に囁かれ、汰絽は頷いた。
優しい手のひらが頬に触れて、目を瞑ると、唇に柔らかい感触を感じる。
「おやすみ」
「…おやすみなさい、風太さん」
名残惜しそうに手を離し、汰絽はむくが眠っている自室へ向かった。
ゆらゆらend
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