ふんわりゆらゆら
ファミレスから出て家に帰ってくると、少し早めのお風呂に入った。
心地よい温度にふうっと息を漏らす。
お湯を手のひらで掬ってこぼしたりしながら今度はため息を吐いた。
きゅっと自分の身体を抱きしめると、今朝のことを思いだす。
風太の力強い腕や、抱きしめられた体温がよみがえってきてゾクリとした。


「ん…」

吐息が零れてから、首を振る。
駄目、と呟いてから、湯船にゆっくりと沈む。
気持ちに気付いてからは、些細な触れ合いでも熱を灯す原因になることに気付いた。
そういうことは、あまりにも自分には遠すぎて汰絽は熱を持て余している。
そっと湯船から出て、少しぬるめにしたシャワーを浴びた。


「たろー」

不意に呼ばれ、心臓が動く。
少しだけ後ろめたい気持ちになりながら、ドアを開け顔だけ出した。


「は、はい」

「あ、悪いな。むくがアイス食いたいって。食わせていいか」

「だめです。えっと、凍らせた小さいゼリーがあるので、それを半分だけ食べさせてあげてください。それで満足すると思います」

「わかった、ありがとな」

「いいえ」

風太が去っていったのを確認してから、思わず座り込む。
ぎゅっと自分の身体を抱きしめて、小さく丸まった。
どうしようもなく、好きだなって、身体が感じている。
頬が熱くなってどうしようもなかった。


「…ほんとに、もう、どうしたらいいんだろ」

ため息交じりにそんな言葉が出てきて、汰絽はゆっくりと立ち上がった。


お風呂から上がりリビングに戻るとソファーの上で、むくと風太がうつらうつらと舟をこいでいた。
微笑ましい光景に小さく笑って、冷蔵庫から水を取り出して飲む。
思った以上に長風呂していたのか、身体が火照っていた。
水がすうっと流れていくのを感じながら、冷蔵庫に戻す。
その音で風太が目覚めたのか、声が聞こえてきた。


「上がったのか…。長かったな」

「考え事してたら、長引いてしまいました…」

「そっか。…お前、寝る?」

「ちょっと身体が火照って寝れないので、もう少ししたら寝ます」

「じゃあ、むくベッドに寝せてくるわ」

頷いてから汰絽はソファーに腰を下ろした。
テレビをつけて眺めていると、風太が戻ってくる。
風太はすぐに汰絽の隣に腰を下ろして、肩にかけていたタオルを取った。
それから汰絽の頭にかけて、わしゃわしゃと撫でる。
緊張して、身体の力が抜けない。


「…あ、の…」

「ん?」

声をかけたきり何も答えない汰絽に、風太は首を傾げた。
汰絽の身体が少し震えていることに気付き、タオルドライをしていた手を止めた。
それからゆっくりとタオルを外し、汰絽の顔を見る。


「お前…、なんて、顔してんの」

「…え?」

お風呂で血行が良くなったため赤らんだとは言えないくらい、赤くなった頬。
潤んだ瞳に、濡れた唇。
熱を含んだような瞳に、心臓を掴まれたような思いになる。
風太の言葉に顔を上げた汰絽の表情はまだその熱を持っていた。
汰絽の頬に手を添えて、熱くなった頬の熱はそのまま手のひらに伝わってくる。

体育祭の時のような熱が、ふたりを包み込む。
どちらからともなく、指先が絡みあい、そのままソファーに汰絽を押し倒す形で倒れこむ。
自分の腕の中で大人しく見つめてくる汰絽に、吸い込まれるように汰絽に口付けた。

唇が重なって、吐息が交換される。
お互いの熱も交わっていくようで、その熱さにふわふわとしていく。
風太の大きな手のひらが何度も髪を梳き、絡まった指先は痛いくらいに握りしめられソファーに押し付けられた。


「んっ…、ふっ、ぁ…んん…っ」

「は…、っ」

一度唇を離し、息をついてからまた唇を重ねた。
空いているほうの手を風太の背中に回し、ぎゅっとTシャツを握りしめる。
髪を撫でていた風太の手は、ソファーに肘をつき、汰絽を包み込んだ。


「ん…っ」

最後にチュッと子どもみたいな優しいキスをして、目を瞑った汰絽が息を整えるのを眺めた。
夢みたいな余韻に、汰絽の額に自分の額を合せる。
汰絽は荒い息の中、ゆっくりと目を開けた。
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