ファミレス
夏に風太たちが土産で買ってきた猫を抱きかかえたむくは、汰絽の膝の上で猫と戯れる。
風太はまだホワイトラビットのメンバーと話していて、ソファーに残っている汰絽と好野は何も言えずに黙っていた。
少し時間が経って、静かになり始めたところでゆるゆると息を吐き出す。


「…あっけなかったね」

「そうだな。…杏先輩も、春野先輩も、潔いって言うか…」

「うん」

そう話してからお互い顔を見合わせる。
さよならをしたわけじゃない。
それでもなんで自分たちがこんなに切ない気持ちになるのだろうか、とふたりは苦笑した。


「たろ、帰るぞ」

好野とふたり、この雰囲気の中取り残されていたら、風太の声が聞こえてきた。
傍に来た風太はむくを抱き上げて、高い高いして見せる。
楽しげなむくに風太が笑うのを見て、汰絽ははい、と小さく返事をした。
好野のもとには杏がやってきて、同じように帰ろう、と告げる。
5人は夏翔と美南に挨拶してから、黒猫を後にした。


「あっけなかったねぇ」

「そうだな」

「それでも、まあ先代よりはいいかなぁ、って思ってる」

「…先代は何も言わないで抜けてったからな」

風太と杏は先を歩き、ぼんやりとしたように話している。
薄暗く曇った空の下、いつもよりずっと静かな帰り道だ。
汰絽と手をつないだむくは、歩きながら歌を歌っている。


「早いけど夕飯でも食ってくか」

「いいねぇ。よしくん、汰絽ちゃん、ご飯食べにいこっか。何食べたい?」

「あ、この近くファミレスありますよー」

「じゃあ、そこにしよ、いい? はるのん」

「汰絽、それでいいか」

「はい」

ファミレスに行くことが決まり、ペースを少し落とした風太と入れ替わり、好野は杏の隣を歩く。
むくの隣にきた風太はむくの頭を撫でて、それから汰絽をちらりと見る。
汰絽はぼんやりとしながら空を眺めたり、むくを見たりしていた。
この頃、汰絽の情緒が不安定で不安を感じる。


「たろ」

押し寄せ来た不安に思わず名前を呼ぶと、汰絽は風太を見上げた。


「はい、なんですか」

少し頬を赤らめた汰絽の顔に、風太はほっとした。
呼んだだけ、と言うと、汰絽はくすくすと笑う。
その表情が妙に色っぽくて、ドキリとした。


「あ、ここですよ」

前を歩いていた好野に声をかけられて、ファミリーレストランに目を向ける。

5人はファミレスに入り、テーブル席に案内される。
ソファーの方に杏と好野が座り、汰絽と風太は椅子に腰を掛けた。
むくは真ん中で子ども用の椅子に座っている。
メニューを見ていると、むくがきゃっきゃと笑いながら風太の手で遊び始めた。


「むく、お子様ランチどっちがいい?」

「こっち! んーまね、プリンんーま」

「お、こっちな。後でおもちゃ貰えるって」

メニューが決まり、呼び鈴を押して注文をする。
向かいあった好野が、紙ナプキンで鶴を作り、むくと遊ぶ。


「はるのん、俺来週木金と休むから、修学旅行の話ちゃんと聞いておいてよね」

「あぁ。土産買って来いよ」

「りょーかい。汰絽ちゃんも楽しみにしててね」

「あ、ありがとうございますっ」

「むうはー?」

「むくちゃんも」

杏はむくに笑いかけ、お冷を口にした。
冷たい水がのどを潤す。
ぼんやりと待っていたら、料理が運ばれてきて、いただきますと挨拶をした。


「杏先輩、どちらに行かれるんですか」

「東京だよー。お仕事なの」

「お仕事、ですか?」

「俺、モデルやってるんだ〜。最近はCMとかにも出てるから知ってると思ってたんだけど…知らなかったかな?」

「す、すごいですね!!」

まるで芸能人を見るように、杏を見る汰絽に好野と風太が笑う。
杏もくすくすと笑った。
杏をじっと見ると、確かにとても整っている顔で、時折見せる表情は色っぽかったり、かっこよかったり、モデルさんだからかな、と思う。
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