さよなら
むくを連れて、黒猫にやってきた。
カウンターには好野と杏が座っていて、汰絽達に手を振ってくる。
ついて早々、風太と杏は美南を連れて、テーブル席に移った。
残された汰絽とむくは、好野のもとに行き夏翔に挨拶をする。


「井川さん、こんにちは」

「おう、こんにちは。むくちゃんも」

「こんにちはー」

挨拶を交わしてから、夏翔の手作りのケーキを振るまってもらう。
美味しそうなケーキに目を輝かせると、好野と夏翔が声をあげて笑った。

テーブル席に移った3人は、用意された飲み物を飲み落ち着く。
一息ついてから、美南の様子を見ていた風太は杏に視線を移した。
杏が頷いたのを見て、風太は口を開いた。


「美南。今日集めた理由、お前ならわかるだろうけど」

「…総長」

「俺と杏は、今日をもってホワイトラビットを抜ける。それにあったって、お前には総長になってもらいたい」

わかっていたのか、美南はその言葉を聞くと俯いた。
ぐっと握られた拳を見て、風太は微笑む。
美南の返事を聞かないうちに、風太はつづけた。


「副総長はお前が選ぶといい。…俺たちの誇りを、お前に渡そう」

「…総長、俺は、まだ…」

「お前なら出来る。俺が直々に仕込んできたからな」

風太の言葉に、美南は顔をあげて、まっすぐに風太を見た。
その瞳の強さに、風太はそれでいい、と告げて立ち上がる。
それから美南の肩を叩き、汰絽の元へ行った。


「美南ちゃん。よろしくね」

「杏さん、俺、自信はないけど…。総長の誇り、ちゃんと受け継ぎたいと思います」

いつもと違った丁寧な言葉づかいに杏は笑顔を見せ、美南の隣に移動する。
美南の肩を抱き、ぐっと力を入れてから頼んだよ、と肩を叩いた。


メンバーがそろってから、黒猫は貸し切りになった。
汰絽達は風太達から少し離れたソファーに座っている。
むくはメンバーにも可愛がってもらえて、にこにこと笑っていた。
風太と杏がカウンターの前に立った瞬間、店内が熱を上げる。


「突然集めて悪いな。聞いてるやつもいるかもしれねえが、今日をもって、俺は総長を美南に引き継ぎたいと思う」

風太の言葉に、店内は一瞬、静まり返った。
その後から、ざわざわとし始め、動揺がフロアを埋め尽くす。
風太の目の前に立っていた美南は、まっすぐに歩き、風太の隣に立った。


「美南の実力はみんなが知っているだろ。反対する奴は俺の意見に反対することだと思え。それでも美南がトップを張るのが嫌なら、それは美南に言えよ」

美南の背中を叩き、引き継ぎの意思を示す。
ひんやりとするような緊張が一瞬美南を襲った。


「春野さんから受け継いだ、この立場を、俺なりに引き継いで、盛り上げていきたい。俺はまだまだかもしれないし、先輩方は俺に反感を持つかもしれない。でも、俺は、先輩方の思いも全部受け止めて、行きたいと思う。これから、よろしくお願いします!」

ばっと頭を下げた美南に一瞬静まり返ってから、笑いが沸き上がった。
何緊張してるんだよ、と声をかけられすぐに顔を上げる。
想像していた光景と違い、みんな笑みを見せて美南に対し声をかけた。
風太の方を見ると、風太は美南に笑みを見せて、任せたと呟く。
その言葉に杏は拳を握り、任せてください、と答えた。


「それからね、みんなー。俺も副総長の座を降ります。副総長は美南ちゃんに決めてもらうから、みんな美南ちゃんを支えてね」

「俺たちが、先代が、誇りをもってこのホワイトラビットを受け継いできた。お前らはその一員だ。お前らの行動に誇りを持て! ホワイトラビットの誇りを見せつけろ!」

風太の言葉に、わっと盛り上がる。
まるでさよならは言わない、そんな雰囲気で沸き上がっているこの熱気に、汰絽と好野は何も言葉を発することが出来なかった。
prev | next

back
第4回BLove小説・漫画コンテスト応募作品募集中!
テーマ「推しとの恋」
- ナノ -