寂しい
「落ち着いたか」

「すみません」

「気にするな」

風太の優しい声が、そういったのを聞いて汰絽は隣を見た。
ほっとするような、それでいてドキドキするような沈黙が訪れてまた顔をそむける。
自覚するまでそんなに気にしなかったけれど、この人は本当にかっこいいのだと思うと心臓が動く。
きゅっと胸を押えて、息を吐き出す。


「…ごめんな。変に距離を取ったりして」

「ぼ、ぼくこそ…」

また静まり返って、ふたりは俯く。
気まずさよりもなんとなく話してはいけないような気がして、話すことが出来ない。
どちらからでもなく、ふたりは手を触れさせてぎゅっと握った。
お互いのあたたかな手のひらに、落ち着く。


「ごめんなさい」

汰絽の謝った声色が、いろいろな意味を含んでいるように感じた。
あたたかな手のひらはぎゅっと握る力を強める。
風太はそのいろいろな意味を問うことが出来ず、黙ったままその手を握り返した。

この気持ちを、思いのまま伝えられたらきっと楽なのだろうと思ってしまった。
そんな自分の狡さにポタリと涙が零れそうだ。


「明後日…土曜日か、黒猫に一緒に来てほしい」

「え…?」

「ホワイトラビット、抜けるよ」

「えっ」

「前に話しただろ。…それを明後日にしたいって思ったんだ」

風太の穏やかな声がまっすぐだから、頷くことしかできなかった。
今まで作り上げてきた、大切な場所から遠のくのは、きっと想像できないくらい寂しいものだと汰絽は思う。
風太を見ると、優しい顔をしていて息を呑んだ。


「…一緒に、」

「ああ、来てくれるか」

「僕で、良かったら」

「お前がいいんだよ」

空いている方の手で髪を撫でられ、頷いた。
優しい手のひらがうんと大人のように感じる。
好きだな、とか、気持ちがよぎっていった。


「風太さん、寂しくない、ですか」

「…寒しくないって言ったら嘘になるな。俺を作り上げたのはあそこでの日々とか、仲間との関係だったから。青春つったら恥ずかしいんだけどな」

「僕なんかのために、」

「僕なんかとか言うなよ。…全部捨てるわけじゃない。ただホワイトラビットの総長っていう肩書を受け渡すだけだ」

風太の寂しさは、それだけじゃない。
そんな風に思ってしまうのは、自分の寂しさを知っているせいか。
汰絽は風太に感じた自分と同じ寂しさを少しでも知りたいと思う。
そっとそんな思いを抱え、汰絽は風太の手のぬくもりを感じていた。


「お、そろそろむく迎えに行かねーと」

「あっ、はい」

手を自然に離した風太が先に歩いていく。
その背中は少しだけ寂しそうだった。
そばに寄って、近寄って、手を握って、腕を絡めて。
風太の寂しさが自分だけのものになればいいのにって思った。
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