知ってるような、知らない
「あ、むくのお迎え…」

好野と杏が激しい談義を繰り返す中、汰絽はぽつりと声を上げた。
好野の首にかかった自分のショルダーバックを取り、自分の首にかける。
内履きとローファーを取り替えて、玄関を後にしようと足を進めた。


「よし君、」

「あ、おう、杏先輩、じゃあ」

汰絽に声をかけられて、頷いた好野は杏に頭を下げた。
靴を取り換えて、汰絽の隣に向かった。


「迎えって?」

隣に来た好野を見て、汰絽は風太に礼を伝えようと振り返った。
その声にこたえようと口を開く。


「…うちの、甥っ子の…」

振り返った先の風太は、薄暗い玄関の中で、なんだか幻想的に見えた。
白髪が薄暗さの中で儚く輝き、青い瞳が淡く燃えるように見える。
思わず息が止まりそうになった。


「一緒に行ってもいいか?」

「え? …いいですよ、でも、いいんですか?」

「ああ、俺が一緒に行きたい」

ポカンとしている好野に、汰絽は笑って、風太にじゃあ、と答えた。
風太はすぐに靴を取り換えてきて、玄関から出た汰絽の隣に立つ。
好野は杏の隣に戻って、汰絽の様子を眺めた。

汰絽達が前を歩くのを眺めながら、好野と杏も後ろを歩く。
でこぼこしたふたりの身長差が、どことなく微笑ましく見えた。


「僕の姉の甥っ子なんです。むくは」

「へえ。…むく、可愛い名前だな」

「はい、とっても…」

曇った表情が見えて、風太は口を閉じた。
自分よりもうんと低い位置にある頭を大きな手のひらで撫でる。
ふわふわの髪が、手のひらをくすぐった。


「今じゃなくていい」

「…ありがとう、ございます…」

「なあ、たろ」

「はい、なんですか?」

こてん、と首をかしげた汰絽に小さく笑う。
ひとつひとつの仕草がちまちましていて可愛らしい。


「俺さ。お前のことよく知ってる気がするんだよ」

「…僕も、春野先輩と、どこかで会ったような気がします」

「奇遇だな」

「はい…。なんだか、誰かにとっても…」

目に入った幼稚園に、ふたりは会話をやめた。
少し待ってて下さい、汰絽にそう言われて、風太は幼稚園の門に腰を軽くかける。
好野と杏がゆっくりと来て、楽しそうに話していた。
携帯を開けば、赤外線通信をしている。
そんなふたりから、視線を幼稚園に移す。
茜色に変わっていく空をバックに、幼稚園を眺めた。


「はるのん、俺、まだまだ未熟だったよ」

「いつもより気持ち悪いな、お前」

「そう? いつも通りだよぉ」

「キモイ」
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