苛立ち
「はるのん、なあにいらついてんのぉ」

窓側の一番後ろの席で、携帯を開けたり閉じたりして、時折舌打ちを打つ。
そんな風に10分休みの3分目を過ごしていたら、目の前に座った杏が振り返った。
最近禁煙を始めたのか、舐めている棒付きキャンディーをがりがりと噛んでいる。


「…汰絽が昨日東条と会ってやがった」

「東条とぉ? …いつの間に仲良くなったのよ」

「むくの迎えに行ったら居たんだとよ。その後にあのクソ甘ったるい匂いしかしねえケーキ屋だか何だか知らねえとこに行きやがった」

「それって、別に汰絽ちゃんが東条に会って、汰絽ちゃんから誘ったわけじゃないんじゃないの?」

ガンっと椅子の足を蹴られ、杏はちょっと、と少し怒りを見せる。
舌打ちをしてから携帯をダンッと机に置いて、あー、と低い声で呻った。
杏は困ったさんですねぇ、と苦笑しながら、棒付きキャンディーをくるくると回す。

イライラとする。
汰絽のことが好き過ぎるのか何なのかはわからないけれど、心の中がざわざわと騒ぐ。
それが、汰絽の鼻先へキスをした東条と会って、あの店に居たからなのか。
それとも、自分が今、汰絽と気まずい状況なのに、あんな親しそうにパフェを食べていたからなのか。
この気持ちの理由が分からなくてイライラとする。


「風太、それって嫉妬じゃない」

「はァ? 嫉妬?」

「やだなぁ。風太ってあれじゃん。昔からそうじゃない。自分が気に入ったものを他の人が持ってたりするとすっごい怒ったじゃん」

「…んなことあったか」

「あったよ。まあ、それは置いといて。…だから、俺さ、風太ってばすっごいやきもちやきなんだと思ってた!」

杏の言葉に、むっとしつつもなんとなく、納得できる。
その納得できるということがまた腹立たしい。
杏を睨み付けてから、携帯をまた手に持ち、開いたり閉じたりし始める。


「納得しちゃった?」

「うっせ、クソ」

ガンっともう一度、椅子の足を蹴った。
素直じゃないなぁ、と杏は笑いながら、口から棒を抜き取る。


「明後日にでも、抜ける」

不意に静かな声でそう言われ、杏は優しく笑い、分かったと答えた。



「寂しくなるね」

「別に、遊びに行かなくなるわけじゃない」

「そうだね」

あの小道に入った奥まったところにある黒猫。
風太と杏にとっては第2の家と言っても過言ではないくらい、なじみ深い場所だ。
そこにいるメンバーも、家族と言ってもいいくらいである。
会えなくなるわけではない。
でも、区切りをつけることは、少しだけまだ寂しいと感じた。


「くっそ…嫉妬深いとか…。マジかよ、俺」

ぼそりと風太が呟いた言葉に、杏は思わず笑った。
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