家族と家族以外
「…キスって、誰とするんですか」
ぼそりと呟いた汰絽に、壱琉はスプーンを持つ手を止めた。
それから、スプーンを抹茶パフェの入った器に下ろす。
汰絽をじっと見つめて、それから真面目な表情で答えてくれた。
「俺は、キスは恋人とするものだと思ってたけど?」
「恋人?」
「逆に、家族とキスするのの方が珍しいと思ったな」
汰絽も持っていたスプーンを器に置いた。
それから、むくの方を見る。
むくは苺パフェに夢中になっていた。
むくにはよくキスをする。
おはよう、だったり、お休みだったり。
「むくにはキスします」
「唇に?」
「…ほっぺとか、おでことか」
「そこの違いじゃねえの。俺がお前にしたのはまあ挨拶みてーなもんだが。…唇にしたらそれはもう家族じゃない、友達でもない、特別な存在なんじゃないか」
「特別…」
アイスクリームに乗っかっていたスプーンがカタン、と器の縁に当たる。
それにはっとさせられて、汰絽はかっと頬が熱くなった。
あの熱い体育祭のことを思い出して、体温が上がっていく。
「それは、風太さんは、特別な存在だけど…」
「特別なんだ?」
「だって、僕とむくの家族になってくれた。先輩でもあって、義兄でもあって…、」
「…まあ、その気持ちに気付かなければいけないのは、お前自身だから俺はこれ以上は何も言わないけどな」
壱琉はそういって、また抹茶パフェに刺さったスプーンを手に取り、食べ始める。
むくは最後までとっておいた苺に取り掛かっていた。
「たぁちゃん、んまーない?」
「…んまーよ。むくもんまーねぇ」
「んまー!」
頬に両手を当てたむくは、嬉しそうににっこり笑った。
壱琉がそんなむくの笑みを見て、小さく笑ったのを汰絽は見逃した。
「春野に連絡、入れろよ。また心配するぞ」
「あ、はい」
携帯を手に取り、風太へのメール画面を開く。
それから、少しで壱琉と出かけている旨を送ってから、携帯をテーブルに置いた。
数分も立たないうちに返信が帰ってきて、汰絽はまた携帯を開く。
「…ここって、どこかわかります」
「店名いえばわかるんじゃね?」
「え、なんでですか」
「ナビがあんだろ」
「あ、なるほど」
汰絽は店名を書き込んでから、それからむくの写真を撮って添付する。
やり方はつい最近好野から教えてもらった。
メールを送信してから、壱琉をじっと見つめる。
「なんだよ」
「…なんか、あなたに自分の気持ちへの手引きをしてもらったのがいやです」
「言うに事を欠いて…だな。おい、電話じゃねえの」
「あっ」
通話ボタンを押して、耳に当てると風太の声が聞こえてきた。
黒猫ではないのか、しんとしている。
「迎えに行く」
たった一言、告げられて、通話が切れる。
どこか怒ったような声で、汰絽はドキリとした。
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