再会?
汰絽とむくの過去や、寂しさを風太と分け合ってから、数週間が経った。
あの時から、風太と汰絽のギクシャクとした感じは、少しだけ改善したけれど、まだ体育祭よりも前には戻れていない。
もうすぐ、風太は修学旅行に行って、一週間は帰ってこない。
その前に、元通りに…、戻りたい。
汰絽はそんな風に思っていた。



「汰絽、今日、黒猫に行ってくるから」

いつも通りお昼休みを4人で過ごしている時にそう言われ、汰絽はひとりで幼稚園に向かっていた。
体育祭以降、テストや風太とのことでずっと気を張っていたのか少しだけ頭が痛い。
幼稚園について、ため息をつくと楽しそうなむくの笑い声が聞こえてきた。
園の門をくぐって遊具がある場所へ顔を出すと、むくと見かけない制服の男が遊んでいるのが見えた。


「いちる、もっとっ」

「もっと? これ以上は駄目だなァ」

以前聞いたことのある名前で、汰絽はむくの元へ駆け寄る。
そこに居たのは、むくと楽しそうに遊んでいる東条壱琉だった。
思わずあーっと叫んでしまって、汰絽はばっと口を塞ぐ。


「…なっなんで、あなたがっ」

「この辺に用があったから来てたら、むくの声が聞こえて、覗いたら居たから遊んでたんだよ」

「はあっ? …、よくも、ぬけぬけとぉ…っ」

「たぁちゃん、あめっ」

ずいっとむくが差し出した手に飴玉がふたつ。
ひとつは汰絽のらしく、むくが手渡してきた。
え、と壱琉を見たら、お前の、と小さく笑う。


「あ…、りがとう、ございます」

嫌そうな汰絽に笑いながら、壱琉はむくの頭を撫でる。
むくも嬉しそうに壱琉を見上げていて、汰絽はまたため息をついた。
今度のため息は、いろいろな気持ちが混ざりあって出てしまった。
あまりむくの前ではため息をつきたくない。
口元を押えて、飲み込むようにする。


「どうした」

「え?」

「悩んでるみたいなため息だな」

「…なんでわかるんですか」

「俺に対するため息だったら、もっと乱暴だと思った」

「…変な人ですね」

むくはブランコから降りて、汰絽にうんと手を伸ばす。
抱っこをしてあげると、ちゅっと頬にキスをくれた。
小さな手のひらが汰絽の頬をむにむにとする。
そんなむくに、少しだけ心が安らぐ。
壱琉をじっと見つめると、彼は何も言わずに地面に置いていた鞄を取った。


「むく、美味いもん食わせてやろうか?」

「うま?」

「馬じゃねえよ。あー…、美味しいの?」

「おいしいの!!」

突然、壱琉がそういったのを聞き、汰絽はは、と声をあげた。
むくはもう行く気満々のようで、汰絽を見上げている。
きらきらの瞳に、うっかりハートを射止められて、汰絽は仕方ないですね、と呟いた。


「おごってやるよ」

「もちろんですよ」

壱琉を一瞥してから、幼稚園の先生に挨拶して、園を出る。
隣を歩く壱琉と、風太の身長の高さが違い、少し違和感を感じた。
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