まさかの意気投合
「汰絽ちゃんは俺たちのこと知らなかったみたいだけど、よし君は俺達のこと知ってるよね」
「まあ、でも今話しててそんな…」
「怖くなくなった?」
「まあ、そんな感じです。なんだか、噂で聞いてたのと違って」
「噂ね、嘘も交じってるし。噂なんてそんなものだよ」
杏が軽く笑うのを見て、好野は口をつぐんだ。
今朝、汰絽に噂のまま話してしまったことを思い出す。
「馬鹿みたいだったな…噂なんか信じて。汰絽を変に怯えさせたかも…」
「汰絽ちゃんに教えたんだ?」
「はい。汰絽が急に春野先輩のこと聞いてきたんで」
「そう」
突然好野が足を止め、杏のほうへ視線を向けた。
それから、きっと眉間にしわを寄せて、真剣な声を出す。
そんな好野に、杏も真剣な表情をした。
「俺は汰絽がなによりも大事です。汰絽を傷つけたら、先輩方だろうと、許しません」
「…そう?」
「きっと、俺は…」
「俺は?」
「がんばります」
「…がんばるのね、…ほんと、よし君面白いなぁ」
杏がどこか嬉しそうに笑うのを眺めた。
そうこう話しているうちに玄関に着く。
杏は靴を取りに行き、好野は下駄箱に寄りかかった。
誰もいない玄関は静まり返っている。
その静寂に耳を澄ましていると、口笛が聞こえて来た。
聞き覚えのある口笛に、好野は頭の中で愛おしい彼女が微笑むのを想像する。
「みらくる☆はあとまじっくのファーストシーズンOP!!」
「え? なに? よしくん知ってるの?」
「…せんぱいこそ」
「え、よし君ってひょっとして隠れオタク!?」
「…せ、せんぱいこそ…まさか、みらはオタク!?」
「よ、よし君こそ!!」
ふたりがお互いに指さしながら、叫んでいると、汰絽と風太がちょうど戻ってきた。
驚愕の一言で表されるようなふたりの表情に、帰ってきたふたりの顔が変なものを見る目つきになっている。
何してんだ、と風太の声に、指が下され沈黙が訪れた。
それからふたりはやたらと輝いた目で戻ってきたふたりを見る。
「はるのん、俺初めて同志様を見つけたよ」
「…たろ、俺も…」
と、ふたりの意気投合を聞き、戻ってきたふたりは首をかしげるだけだった。
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