むく
「テスト、どうだった」

むくを迎えに行く帰り道。
隣を歩く風太に尋ねられて、汰絽はそちらへ視線を向けた。
優しい表情をしている風太にドキリとしてまた前を向く。


「大丈夫でした。風太さんに、教えてもらったところもちゃんと解けたし…」

「そうか、良かった」

「あの…」

「ん?」

前をまっすぐ向いている汰絽が、小さな声で声をかけてきて風太は促した。
汰絽は言い淀んでいて、足取りが重くなる。
あと少しで、幼稚園にたどり着く。


「汰絽君っ」

不意に名前を呼ばれ、そちらをむくと、幼稚園の先生が駆け寄ってきた。
そばに来た先生は汰絽の手をぎゅっと握って、息を整える。
風太は先生が慌てていることに、嫌な予感が胸をよぎり、汰絽を見た。
汰絽も不安そうに眉を下げていたのを見て、背中をそっと支える。


「むくちゃんが、…むくちゃんが居なくなったのっ、ごめんなさい、僕が見ていたのに、少し目を離したら、もう…」

「…っ、」

大きく肩を揺らした汰絽が、後ずさりそうになる。
風太はそんな汰絽の背中を撫でてから先生と向き合った。


「いなくなったのはいつですか。いなくなる前に何かありましたか」

「えっと、いなくなったのは10分ほど前で…。いなくなる前に、ちょっと同じ組の子と喧嘩して…、」

「どんなことで喧嘩したんですか」

「えっと…、ご両親が、いないことで、喧嘩してしまって」

先生の言葉に、汰絽の身体が震え始めた。
どうしようもない不安がこみあげてきて、ぎゅっと唇を噛みしめる。
どうしよう、どうしよう、と頭の中がぐるぐると回りはじめ、汰絽は風太の服をぎゅっと握った。


「汰絽、むくが行きそうなところにおぼえはあるか」

「…っ、」

「汰絽、落ち着いて。大丈夫ちゃんと見つけるから」

「っ、…、わか、んない…、わかんないっ」

ぼたぼたと涙を流し始めた汰絽の頭を撫でてから、風太は携帯を開いた。
それから杏に電話をかけて、チームの仲間に探してもらうように頼む。


「先生、幼稚園をもう一度探してください。もしかしたら、昔の家に向かってるかもしれないから、俺たちはそっちを探してきます」

汰絽の手を取って、風太は風見鶏の家の方へ向かった。
途中の小道も覗き込んだりしながら、歩いていくと風見鶏の家の近くの公園につく。
公園の中に入っても、子どもの姿は見当たらなかった。


「…っ、どうしよ、」

汰絽の小さな声が震えていて、風太は足を止めた。
俯いた汰絽の顔を両手で挟んで上へ向ける。
赤くなった唇を親指で撫でてから、汰絽の額に自分の額を重ねた。


「泣いてたら、探せないだろ。汰絽」

「…でも、でも…」

「お前がそんなに泣いてたら、むくがもっと泣く。ちゃんと見つけて、抱きしめてやろう。な?」

「…っ」

こくりと頷いた汰絽に、風太はよしっと声を出して、今度こそ風見鶏の家に向かう。
走って、そこまでたどり着くと、玄関の階段のところに小さく丸くなっている姿が目に入った。


「むく!!」

汰絽が大きな声で名前を呼んだのを聞いて、小さく丸まったむくが顔を上げる。
わんわんと泣きながら、自分に手を伸ばして走ってきたむくを、汰絽はぎゅっと抱き留めて声をあげながら泣き始めた。
風太は大きな泣き声を上げるふたりを強く抱きしめた。
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