体育祭-7-
女借に出た生徒は、残りの時間を女装をしたまま過ごさなければならない。
残りは杏のリレーと他の競技しかないため、風太と汰絽は屋上に来ていた。
日陰に入って、自販機で買った冷たいお茶を飲んでいる。


「セーラー服とかあざといな」

「あざとい?」

「気にすんな」

ポンポンと、頭を撫でられて、汰絽は目を細める。
走った所為で紅潮していた頬の熱が引いて、冷たいお茶を当てていたおかげで身体の熱もゆっくりと下がってきた。


「たろは俺にあこがれてるんだな」

不意に風太がそう呟いて、汰絽はまた頬が熱くなるのを感じた。
かっとし始めて、一瞬心臓も止まったかと思った。
体育座りをしている汰絽はコンパクトになって、膝に顔を埋める。
スカートから覗く白い太ももが綺麗で、風太は手を伸ばしそうになった。


「パンツ見えますよ」

「誰も、みませんよっ」

太ももとふくらはぎの間に腕を通し、スカートを押える。
風太を睨むと、優しく微笑む顔が目に入り、汰絽はもう一度顔を膝に埋めた。


「セーラー服、似合う」

「うれしくないっ」

「かわいい」

「もう、恥ずかしいからやめてくださいっ」

ぱしっと風太を叩こうと手が伸びたが、その手を風太ががしりとつかんだ。
大きな手のひらに手を取られ、指先が絡められる。
その動きが、どこか色っぽくて、汰絽は真っ赤な顔をさらに真っ赤にさせた。


「…な、なに…、なんです、か…」

「んー? 可愛い汰絽さんをちょっといじめてみようかと」

「へっ?」

目を大きく見開いた汰絽は、風太をじっと見つめる。
見つめられた風太は苦笑してから、汰絽の手を握る手に力を入れた。
いつもより体温が高く感じる。
風の音も、あたりの声も遠く感じ、目の前の汰絽だけに意識が全部奪われた。
それは汰絽も同じようで、風太の呼吸の動きに合わせるように息が唇にかかる。


「はは、…そんな、緊張するなよ」

腕を引き寄せて、顔を近づける。
潤んだ瞳がゆらゆらと揺れた。
風太の低い声にしんとして、汰絽はそっと目を瞑った。
まるでそうすることが、正しいようにそっと。
風太も目を瞑った汰絽に促されるように、また距離を詰めた。



「あ、汰絽、春野先輩。そろそろ始まりますよ」

「ああ」

「…うん」

戻ってきた汰絽と風太は好野の隣に腰を下ろした。
隣に座った汰絽の頬が赤く染まっていて、好野は首を傾げる。
セーラー服も着慣れてしまったのか、女の子みたいな座り方をしていて軽く笑う。
好野の笑い声にもこたえない汰絽は、どこかいつもと違った表情をしていて、好野は首を傾げた。


「汰絽、どうした?」

「う、ううん、なんにもない」


「そうか? ちゃんと水飲んでるか? お前、案外体調崩しやすいんだから、夏場」

「あ、大丈夫」

「たろ、ほら」

右隣に腰を下ろしている風太に、お茶を渡される。
びくりと肩を動かした汰絽はこくりと頷いて風太からお茶を受け取った。
好野がそんなふたりに首を傾げていると、スタートラインの方からピストルの音が鳴った。


今年の体育祭は、まさかの特進文系科が総合優勝を勝ち取った。
汰絽や女借に出た生徒が全員1位を勝ち取ったのがいい点になったようだ。
セーラー服を着た汰絽が、先輩やクラスメイトに囲まれているのを、風太と杏は眺めていた。

優しい時間 end
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