体育祭-5-
ダンスパフォーマンスを終え、午後の競技が始まった。
玉入れを終えてから、午後の競技の目玉である女装で借りちゃう借り物競争、略して女借の順番になった。
招集のかかった汰絽は好野に手を振って召集場所に向かう。
後ろから「頑張れよーっ、汰絽ー!」と大きな声援がかかった。
そんな好野の声に、汰絽は小さく笑った。


「いよいよお待ちかねの女装で借りちゃう借り物競争略して女借っ、午後の大目玉の競技が幕開けしますっ みなさん目をよぉく見開いてあんな姿やこんな姿を拝めましょう!」

元気なアナウンスがかかり、汰絽を含めた女借に出場する選手達は苦笑した。
入場を始めた前の選手の後を、小走りでついて行く。


「…選手が並んだようですね。今年も顔がいい生徒が九割。残りはネタ要員でしょうか、いい具合に揃いましたね!!」

「そうですね。何より、今年の期待の星は、1年のえー、春野汰絽君っ。小さな体に小さな手、誰もが和んでしまう彼はどんな姿になるのでしょうかね」

アナウンスの声に、最終走の列に居る汰絽に注目が集まった。
本人はぼんやりと空を眺めていて、注目されていることには気付いていない。
アナウンスのブースも、グラウンドもぽわぽわと和んでしまい、気を取りなおしたアナウンス役の生徒がもう一度気合いを入れなおした。


「はるのん、目つき悪いよ〜」

「あ? うっせーな」

はいはい、と笑ってから、杏も汰絽と同じように空を見上げた。
空にはぷかぷかと雲が浮かんでいる。
「何見てるのかな、汰絽ちゃん」と風太に笑いかけると、風太はそこに居なかった。
前を向くと、風太はレースが見える一番近くに向かっている。

パアンっ、と大きなピストルの音が鳴り、第一走が始まった。
今年一番人気が出ている汰絽は最終レース、三列目のようだ。
風太は最高列でぼんやりとしている汰絽を眺める。


「汰絽ちゃん、人気者だねぇ。みんな見てる」

「…ああ。…今年期待の1年ってあいつだったんだな」

「案外騒がれてなかったから気付かなかったんだね、はるのん。…それに、汰絽ちゃんさ」

そう言って急に黙った杏に風太は目を細めた。
眼鏡ありますか、眼鏡男子いますか、眼鏡教師いますか、と目の前を走るメイド、ナース、某国民的魔女っ子とその他。
杏はそれを見てからけらけらと笑った。
おい、と声をかけると、杏は咳払いし今度はにやりと笑う。


「噂で聞いたんだけどさ、汰絽ちゃん、結構告白されてるらしいよ」

「告白? 男子校で?」

「それはるのんが言うのぉ?」

「うっせ」

むすっとした風太に杏は困ったねぇ、と笑う。
いつもより楽しそうな顔が憎たらしい。


「ラブレターが下駄箱にたっぷり入ってるんだって」

「はァ? そんな話聞いてないんだけど」

「そりゃあ、ラブレターたくさんもらってるんですぅ、なんて言わないっしょ?」

確かに、と納得してしまい、風太は舌打ちした。
眼鏡男子や教師などを探していた生徒たちはいつの間にかゴールを切っている。
風太は汰絽の方へ視線を移し、見つめた。
日差しの中、ぼんやりとしている汰絽は、確かに誰もが惹かれるような雰囲気を持っている。


「次の走者は、おおっと、ここは期待の3年生! 見事なすね毛がどう来るか!! 期待大ですねぇ!」

次のレースはギャグ要員が多い。
杏が身を乗り出してゲラゲラ笑う。
隣の風太は何かを考えているようで、杏は乗り出した身をひっこめた。


「よし君に聞いたんだけどね。ラブレター、一通一通断りに行ってるみたいだよ」

「はあ? いつ。帰りも昼も最近俺と居るだろ」

「俺って言うか、俺たちね。十分休みの時とか朝だって」

「そんな短時間でか?」

「仕方ないでしょーが」

「…意外すぎて頭痛が起きそうだ」

風太が苦笑しながらまた汰絽に視線を移すのを、杏は静かに眺めた。
汰絽の意外性は、風太を困らせる要因のようだ。

衣装室から今のレースを走っている期待の3年生が出てきてどっと笑いが沸き上がった。
すね毛のすごいその人は、白衣に短いスカートにブラウス。
いわゆる女医という奴だ。
視線をコースに向けた杏は思わず吹き出した。


「今年って眼鏡推しみたいだね。ほとんど眼鏡関係じゃん。シュールすぎるよ」

杏の呟きに、眼鏡眼鏡、と探し回っている姿を見ながら風太は鼻で笑った。
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