不機嫌な風太さん
むくと手をつないで、空いてるほうは買い物袋をぶら下げてマンションに帰ってきた。
玄関を開けると仁王立ちした風太がこれまた鬼のような形相で立っている。
どうしたんだろう、と思いつつも、ただいま帰りました、と告げた。
すると、風太は重たいため息をつきながら、靴を脱いだむくを抱き上げる。
なんでこんなに不機嫌なんだろう、と首を傾げながら汰絽も後に続いた。

風太は汰絽から買い物袋を受け取り、冷蔵庫に中身を移した。
むくは教育番組を見ながら、積木を手持無沙汰にいじっている。
冷蔵庫に中身を移し終えた風太と、カバンを部屋に置いてきた汰絽はソファーに腰を下ろした。


「えっと…。僕、何かしましたか」

「…なにか?」

「えっと、なんで、そんな不機嫌なんですか」

「体育祭」

風太の一言で、うっと息が詰まる。
もしかして、女装で…に決まったことが何か、不機嫌に…?
と妙に、冴えわたる推理で汰絽は風太から視線を逸らした。


「…なんで、知ってるんですか…。僕が女装で借りちゃう〜…に出ること」

「一外から聞いた。…お前なんでそれ選んだんだよ」

「選んだわけじゃなないです」

「はあ?」

「…余ったのでいいよって頼んだら、余ったのそれだったんです」

愕然とする風太に、汰絽も同じように項垂れた。
なんとなく、風太には知られたくなかったが、もう遅い。
それにしても、なんで風太が不機嫌になるんだろうか、と汰絽は顔を上げた。


「そんなに僕の女装見たくないんですか? 眉間にシワ寄せて怒っちゃうくらい…?」

汰絽の言葉に今度は風太がうっと息をつめた。
これは聞かれたくない。
風太は汰絽の不安そうな顔を見てなおさら、息を詰める羽目になった。
くっそ…、この無自覚さんめ、と心の中で言いながら、汰絽の方を向く。


「見たいのは見たいんだが…」

「見たいんですか」

「いやぁ…」

「…? 変な風太さんですねぇ。…変に焦っちゃって」

言い訳を考えながら、目線をつい〜と逸らしたのが汰絽にはわかっていたのか、首を傾げながら、風太を問い詰める。
困ったことに、なんていえばいいのか全く思いつかない。


「…焦ってないよ。…あー、腹減ったなあー。飯食いてー、腹減ったなー」

見事な棒読みに汰絽は首を傾げながら、今作りますよ、と腰を上げた。
変な風太さん、ともう一度呟いてからキッチンへ向かう。
しぶしぶ腕まくりをしながら、気合を入れて冷蔵庫を開けた。


夕飯を終えて、お風呂も入り終えてから汰絽はむくをリビングでのんびりとしていた。
むくはカーペットの上で絵本を眺め、汰絽はそんなむくを眺めている。
風呂から上がった風太もやってきて、汰絽の隣に腰を下ろした。


「そういえば、風太さんはなにに出るんですか?」

「綱引き」

「えー? 綱引きですか?」

「おう。…あ、当日飯どうする?」

「一緒に食べたいです!」

「おう。じゃ、屋上でな」

風太はそう言うとおもむろに立ち上がりキッチンへ向かった。
冷蔵庫の中からアイスを取り出して袋を開ける。
一口だけ食べてからソファーに戻った。


「あっ、ずるい」

ひょいっとアイスを傾けながら腰を下ろすと、汰絽はカプリとかじりついた。
それを見た風太が後はやるよ、と汰絽にアイスを渡す。
汰絽が受け取ったアイスを見て、むくがあーと口をあけながら傍に寄ってきた。
どうぞ、とむくに傾けるとむくは嬉しそうにアイスを食べる。


「おいしー」

少しで満足したのか、満面の笑みを浮かべたむくに風太が軽く笑った。


「風太さん、僕が出るとき見ないでくださいね」

「やだ」

「むー…」

「かわいいから絶対見る」

「かわいいなんて言われてもうれしくないです」

「照れてるな」

むっと口を尖らせた汰絽に笑いながら、風太は汰絽の頭をポンポンと撫でた。
アイスを食べ終え、ごみ箱に棒を入れた汰絽は風太の足を軽く叩く。
運動会まで、あと2週間近くのこと。
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