優しいです
「たたたた、汰絽さん、どこ行くのぉ」

「ゴミ捨て行ってきます。春野先輩が手伝ってくれるの」

そういいながら、汰絽は好野の手からチリトリを取り、ごみをゴミ袋に捨てた。
風太がそのゴミ袋を結び、汰絽を呼ぶ。
チリトリと箒を片付けた汰絽は、風太に駆け寄った。


「ちょ!」

「よし君、遅くなってごめんね。ゴミ捨ててくるから先帰ってていいよ」

「いや、待ってる! むくちゃんと遊ぶんだ…!」

「そう? わかったぁ。じゃあ、玄関で待ってて下さいな」

「わかった、きをつけひああああ」

最後まで言い切れずに叫び声をあげたのは、風太が一瞬好野を見たから。
弱虫好野の悲鳴に、隣で腕をからませていた杏が笑う。

そんな好野に汰絽は首をかしげて足を止めた。
行くぞ、と風太に声をかけられ、汰絽は足を進めた。
階段を降りる足は長く、汰絽を置いていく。
足の長さの違いか、スタミナの違いか、すぐに呼吸が乱れた。
ついてくのに必死になってしまう。


「せ、は…、ぜ、はぁ、はやぁ…い」

荒れた息で速い、と一言告げれば、風太は足を止めてくれた。
ゆっくりと追いかけ、追いつくと、汰絽の頭をなでて、笑う。
よく見る、と犬歯が鋭いのか、笑うと少しだけ可愛く見えた。
そんな風太に、汰絽は小さく笑う。


「悪いな、足の長さを考えてなかった」

「い、いえ…。僕が遅い、だけなんで」

「そうか? …そういえば、お前名前なんていうの?」

「僕? …え、っと六十里汰絽です」

「たろう?」

「たろ、です。たろうじゃないですよ」

「へえ。…なんかお前、かわいーな」

そんなことないです、と笑い、歩き始めると、風太も同じようにゆっくりと歩き始めた。
今度は汰絽に合わせた速さで、汰絽は風太の優しさに心が温まる。
やっと1階に辿りつき、ゴミ捨て場のある体育館裏へ向かう。
体育館へ続く渡り廊下から、外に出た。
ここにも綺麗な桜が並んでいる。
上を見て、桜の花びらを眺めると、風太が声をかけてきた。


「お前、俺の名前、知ってるか?」

「春野、風太先輩?」

「知ってるんだな。そういうことには疎そうなのに」

少し不機嫌そうな声に、汰絽は風太に視線を向けた。
風太の不機嫌さが伝わったのか、眉間にしわが寄っている。
そんな汰絽に風太は目を細め、見つめた。
切なそうな顔をしている汰絽に、変な期待が胸によぎった。
そんな自分を嘲笑い、風太は視線を汰絽から桜に移した。


「そういうことって、どういうことですか?」

「不良とか、族とか」

「先輩が不良さんだってことは朝知りました。それまで、先輩の名前も知らなかったです」

汰絽の呟きに、風太はほっと息をついた。
それから桜からもう一度汰絽に視線を向ける。


「俺のこと怖くない?」

「怖い? どうして? 先輩、優しいです。ゴミ袋ここまで持ってきてくれた」

こてん、と首をかしげながら、口を動かす汰絽に風太は口元を押さえた。
柄になく、頬が熱くなるのを感じる。
汰絽は口を押さえた風太から、視線をもう一度桜に向けた。


「朝、先輩とすれ違った時、綺麗な人だなって思って…、よし君から教えてもらいました」

そう呟く声に、風太は何も返さない。
汰絽の頬に桜の花びらが降ってくる。
その桜から視線を上に持ち上げて、風太も汰絽と同じように桜を眺めた。
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