期待は裏切られてこその期待
その頃、特進理系2学年教室。

杏と風太はしっかりと教室でホームルームに参加していた。
もちろん、面倒な競技にあたりたくない、という気持ちで。
杏は楽しいことが基本的に好きなため、出たいやつに出れるように教室にいる。


「…俺、綱引きな」

「…そ、そそそそうですよね!」

定員オーバーだった綱引きからさっと人がひいていく。
風太の名前と杏の名前が書きたされ、残りの足りない人数がじゃんけんによりきめられた。
杏は綱引きの他、もう一つ、軍団リレーに立候補し、無事にメンバーに選ばれた。
満場一致…で競技決めは終わり、残りの時間は自由に過ごしていいと担任が教室を出ていく。

「汰絽ちゃんどう? 大丈夫そう?」

「ああ」

「よかった。はるのんの事嫌われたらやだもんねぇ」

「うっせ」

杏を一瞥しつつ、窓の外を見る。
きらきらと夏の日差しがアスファルトを反射していてチカチカしていた。


「はるのん、西との抗争を終えたらちゃんと話そうね。抜けるよーって」

「ああ。…次はどうする。美南で大丈夫か」

「だいじょーぶだいじょーぶ」

「…あいつ、テンパるとやべえじゃん」

「俺たちがいるから、どこか安心しきってるんでしょ、美南ちゃん」

杏の表情が柔らかくなり、優しくなる。
チームのメンバーに対して杏は極端に甘くなる。
そんな杏を眺めながら、風太はそうだな、と返事をした。


「汰絽ちゃん達も競技決めしてんのかなー」

杏が椅子の後ろ足に体重をかけ、うーんと背伸びをする。
今日は始業式とホームルームしかないため、そうだろうな、と軽く返事をした。




「そーだ。あのさー、はるのーん。汰絽ちゃん、女借りに決まりそうだね」

けらけらと笑いながら言う杏に、洒落にならん、と一瞥する。
黒板に書かれた女装で借りちゃう借りもの競争の文字が、恐ろしい。
期待を裏切らないでくれよ、と別棟にいる汰絽に祈った。


「おい」

「わかってるよーん。もうメール済みでござる」

メール画面をタップして送信済みのメールを見せられる。
楽しそうな表情にいらっとしつつもそれならいいと、風太はだらんと腕を垂らしやる気のない恰好をする。


しかし、風太の期待は無残にも裏切られた。
好野からの返信を見て、杏が盛大に笑い腹を押えている。
それから風太にほい、と携帯を手渡してきた。


「まじか」

「マジだねぇ。汰絽ちゃん見事に期待を裏切ってくれました!」

「…」

「女装とかはまり役すぎ…っ、ぶふっ、」

無言の風太の顔は、眉間にしわがより恐ろしいものだ。
あーこわ、と呟きながら風太の眉間に手を伸ばしぐりぐりとしわを伸ばそうとする。
風太は大きなため息をつきながらその手を払った。


「頭を抱えたい状況ってこういう時になるんだな」

風太が呟いた言葉に杏が再度大笑いしたのは言うまでもない。
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