うれしかった
「きれいごと…のつもりでは、なかったんだけどな」

サイドボードに入っている救急箱を取り出していると、ソファーの方から汰絽が呟いた言葉が聞こえてきた。
男に言われたことが気になっていたのか、声が少し落ち込んでいるようだ。


「お前の言葉、嬉しかった。…俺の責任を、お前も背負ってくれるんだな」

救急箱をテーブルに置きながら、汰絽の隣に腰を掛ける。
頬から出てる血は止まっているが、血が乾いて固まっていた。
先に用意しておいた洗面器とタオルで汰絽の頬を拭く。


「汰絽、約束をしないか」

「…約束?」

「俺は、お前の傍にいる、お前を守るって約束した」

「はい」

「…お前も俺に約束して。また、こんなことがあったら…。二度とこんなことにならないようにするけれど、今度は助けを呼んで。俺に、助けてって言って」

風太はそういうと汰絽の頬を拭いていたタオルを机に置いて、新しいタオルを絞った。
なにも答えずに風太の手を見つめていると、風太は苦笑しながら汰絽の頬をもう一度タオルで拭く。
何度拭いても、砂利や血が付く。
固まった血はようやくふき取れた。


「泣くのを我慢するな。痛いことをされたときは痛いって叫んで、俺に助けを求めて」

「…はい…」

「ごめんな、怖かったよな」

風太の優しい声に涙がボロボロと零れ始めた。
今更身体が震えてきて、風太の肩に頭を乗せる。


「怖かったです…、怖かった、」

「うん」

「風太さんって、何度もよんだ」

「うん、ごめんな…」

「…あんなことされるの怖かった、」

「怖かったよな、ごめん」

ぎゅっと抱きしめられて、涙を流していると身体の震えも、涙も徐々に収まってくる。
気持ちが落ち着いた頃に、もう大丈夫、と呟いて風太から身体を離した。
風太がゆるゆると息を吐き出す。


「…なんとなく、今安心できた」

風太のつぶやく声に頷きながら、キッチンへ行き手のひらを洗い流す。
綺麗に洗い流し終わって風太の隣に戻った。


「風太さん、風邪ひいてたのにごめんなさい」

「いや、熱も下がったし、大丈夫だと思う」

「でも、一応安静にしてたほうが…」

「ずっと寝っぱなしだから、逆にそっちのが身体に悪い。…ソファーでゆっくりしてる」

こくりと頷いて、汰絽も少しゆっくりしようとソファーの背もたれに身体を預けた。
隣の風太も同じようにするのを横目で見ながら、汰絽は風太に少しだけ近づく。
そばにいると、とっても心が落ち着いた。


「風太さん、…助けに来てくれてありがとうございました」

「いいえ」

「来てくれて、うれしかった」

「おう」

風太のそっけない返事がとても優しくて、汰絽はうつらうつらし始めた。
疲れたのかな、ごめんなさい、眠い…。
とろんとした声で風太に伝えると、寝ていいぞ、と返事が返ってきた。
目を瞑るとすぐに意識が遠のいていった。

ホワイトラビット end
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