ごめんなさい
「いいんすか、出てきましたよ」

「いい、もう…。バカみたいだ、俺」

「…そんなことないですよ。…あんたは、まっすぐなだけだ」

男はそう言って手を差し伸べてきた男の手を掴んだ。
ぐっと引っ張られ、立ち上がる。


「馬鹿みたいだ…」

もう一度そう呟いた男の背中を、そっと撫で、隣に立つ男は目を瞑った。



「…くっそ」

小さく呟いた風太の声で目を開いた。
お姫様抱っこをされてることに気付いて、あ、と思わず声を出す。


「…目、覚めたか」

「はい、すみません」

「なんで謝んの」

「だって、心配かけた。…ひとりになるなって言われてたのに」

汰絽の小さな声に風太は足を止めた。
それから汰絽をおろし、黙ったまま手の縄をほどく。
廃工場からは少し離れた川の傍で、水の音が大きく響いていた。
川に視線を向けると、まぶしくきらきらと光っている。
風太に見えないように、縄をほどいた後すぐに手を下ろして後ろで組んだ。
大きな手のひらが伸びてきて、一瞬びくりと身体を震わせる。
伸びてきた手が一瞬止まり、それから恐る恐る指先で頬についた切り傷に触れた。


「この傷も、その手の傷も…、俺の所為だ。守るって約束したのに、俺は守れなかった」

「これは、僕がうかつだったから…。ちゃんと危ないって理解して、誰かと一緒に行っていたらこんなことにならなかったから…、風太さんの所為じゃない」

「…お前はそういうけれど、俺は怒りでどうにかなりそうだ。…あいつらにも、…一番は俺自身に」

風太の声が震えている。
でも、頬に触れている手に自分の手を重ねることが出来なかった。
風太の手の震えを感じて、汰絽はぎゅっと胸が締め付けられる。


「…今まで、こういうところに身を置いていたことに後悔したことがなかった。…でも、今すごく後悔してる。俺の行動で、お前が危険な目に合う。それはもう俺が過去にやってしまったことだから、もうどうしようもない。…そのことに怒りを感じるよ」

そういう風太の顔がとても辛そうで、汰絽は何も言えずに目に浮かぶ涙をこぼした。
汰絽の涙を見て、風太は汰絽をぎゅっと抱きしめる。
肩口に顔をうずめ、強く強く抱きしめた。


「そんなこと、言わないで…」

小さくてかすれた声でそう呟いて、汰絽は風太の背中に腕を回した。
深く後悔をしている風太にかける言葉が見つからなくて、辛い。


「帰ろう」

風太の小さな声で汰絽はこくりと頷いた。
歩き出そうと足を進めると、がくんと膝から崩れる。


「…ごめんなさい、風太さん…、腰が…」

「ああ、そうだよな。ほら」

「お願いします」

背中を向けた風太に身体を預ける。
ふわふわと揺れる感覚がとても心地よい。


「…ごめんな、汰絽」

最後に聞こえてきた言葉に、なにも言葉を返すことが出来なかった。
prev | next

back
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -