アスファルト
じりじりと聞こえてきそうなくらい暑い。
アスファルトからの照り返しが強く遠くを見ているとじわじわと歪んで見えた。
部屋に戻ったら少しエアコンの温度見直そう、外と温度差がありすぎるとあんまりよくないなぁ、と考えながら汰絽は灼熱のようなアスファルトの上を歩き始める。

近くのスーパーの中は外と比べればひんやりとしている。
野菜コーナーで夏野菜をカゴに入れ、風太のために吸収しやすい飲み物を選び始めた。


「んー…、これは嫌いだろうなぁ、甘ったるいし。でもこれはちょっとあんまり…炭酸だし…。あ、これがいいかもしれない」

心の中でひとりで考えながら最終的に決まった飲み物をカゴに2、3本入れる。
後はヨーグルトやゼリー、アイスも買ってこうとコーナーへ向かった。


「よし、かえろ」

買い物を終え、思わずつぶやいた独り言にあたりを見渡す。
誰も聞いていなかったことを確認してからそそくさとスーパーから飛び出した。
早く帰らないとアイスが溶けてしまう。
急ごう、と足早に来た道を帰った。

スーパーから出て少し先のところで後ろからついてくる存在に気が付いた。
駆け足になっているけれど相手の方が早いのか、足音が近づいてくる。
3人くらいの足音。
怖くなってポケットの中の携帯を取り出した。


「どうしよう、どうしよう、どうしようっ、風太さん、風太さんっ」

携帯を開いて風太のページを開いても、風太が寝込んでいることを思い出してすぐに違うページを開く。
夏翔のページを開いた時に、足がもつれて地面に叩きつけられた。
手を伸ばして、コールの文字を押す。


「ッチ、こいつあのバーのオーナー呼ぼうとしてんじゃねえか」

「春野じゃねぇのか?」

「呼べねぇ理由でもあるんじゃね?」

熱くなっている地面から起き上がろうとしたとき、ぐり、と背中を踏まれた。
こんな風な痛みを感じたことがない。
胸が苦しくなってせき込むと、しゃがみこんだ男に髪を掴まれた。


「…っ」

「かわいい顔してんね」

そう言いつつ、目の前の男は熱くなったアスファルトの上に汰絽の顔を押し付けた。


「…っっ!!」

悲鳴にならない声が噛みしめた歯の隙間から零れだす。
ぎゅうぎゅうと頬に押し付けられるアスファルトが熱くて熱くてたまらない。
ざりざりとした感覚が頬を傷つけていることがわかる。


「てかこいつで間違えねえんだよな?」

「ああ、そいつだよ。間違えねえ。…あの路地でビビってたやつに間違えねえよ」

「…っ、…っ」

髪を持たれ、身体を起こされる。
ブチブチと聞こえてきた音にぐっと拳を握った。

ごめんなぁ、春野を恨め

ゲラゲラと笑う声が聞こえてきたのと同時に、汰絽の腹部に思い一撃が落ちてきた。



「あー…」

喉の痛みはあるが熱が下がったようだ。
身体を起こしあたりを見渡すと汰絽がいないことに気付いた。
風太はベッドから降りてキッチンへいるだろう汰絽を探しに向かう。


「たろー? 悪い、ねつさが…た。…いねぇ」

キッチンの扉を開くと、そこに求めていた姿がなかった。
しんとしたリビングを抜け、汰絽の部屋に向かう。
途中に寄った風呂場にもトイレにも汰絽はいない。
もちろん、汰絽の部屋にも誰もいなかった。


「…買い物か? 俺が寝たのいつくらいだ」

独りで思わずぼそぼそ呟きながら部屋に戻る。
汗がひどく、上着だけ変えようと部屋に戻って携帯を見た。
Tシャツを変えながら携帯を見ると夏翔から何件も電話が入っていた。
急いでコールをタッチすると夏翔が焦った様子で風太か、と叫んだ。


「俺の携帯にかければ俺が出るだろうよ」

『そんなことはいいんだよ! 汰絽ちゃんから電話かかってきて、男の声が聞こえたかと思ったらすぐに切れた。…おそらく、何人かに連れてかれたんじゃねえか!?』

「…何時頃だ」

『10分前くらいだ! お前、熱は?』

「下がった」

電話を切って、部屋を出る。
綺麗にそろえられたサンダルを履き、家を出た。
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