不安
「汰絽、携帯買ったのか」

「ん、風太さんが」

「よかったな。あ、赤外線」

「うん!」

むくは幼稚園に行っていてたまには外に出ようか、と風太と出かけた。
行先は特に決めてなかったため、街中まで買い物をすると名目で来ている。
途中、青いペンキで塗られたお店から出てきた杏と好野と出会い、この後は4人で…なんて高校生らしい外出になった。
それから今、飲み物買ってくるから待ってろ、と言われ木陰の4人掛けのテーブルでふたりは先輩組を待っていた。
携帯を背中合わせにして赤外線通信をしながら、暑いね、と話す。
日陰に居ても暑いものは暑い。


「たろ」

「あ、風太さん」

戻ってきた風太から飲み物を受け取り、汰絽はストローに口をつける。
少し解けかかったクリームソーダをスプーンでアイスを掬って食べた。
戻ってきた風太が前の木造のベンチに座ったのを見て汰絽はそちらに移る。
杏も戻ってきて、好野の隣に座った。


「一外とアドレス交換した?」

「はい。うれしいです」

「そうか。良かった」

嬉しそうな様子によかったと軽く笑った風太に、汰絽はこくこくと頷く。
杏は好野に飲み物を渡し、手首にかけておいた袋から箱をふたつ程取り出し開いた。
中にはたこ焼きと手羽先が入っていて、おいしそうな香りがする。
食べていいよ、と杏が言うと嬉しそうに汰絽と好野はいただきますと手を伸ばした。


「あ、はるのん、汰絽ちゃんにちゃんと言った?」

「いや、まだ」

「ちょっとしっかりしてよね」

「女みたいなこと言ってんじゃねえよ」

杏をにらみつけた風太の腕を引いて首を傾げる。
口元にはソースがついていて、ひょいっと指先で風太が取って口に運んだ。
その仕草は最近何度もされてきたから恥ずかしさはもうあまり感じない。
好野が驚いて口を開けてるのを見て、杏も苦笑した。


「よし君、そのうち慣れるよ」

ぼそりと隣で呟かれた言葉に、好野も同じように苦笑いした。


「あのさ、たろ。夏休み中、あんま外に出るなよ」

「…どうしてですか?」

「そろそろさ、おっきい喧嘩がありそうだから」

「喧嘩!?」

大きな声を出した汰絽に驚きながら風太は頷いてから、頬杖をつく。
不安そうに顔色が曇った汰絽の頭を撫でながら、大丈夫と囁いた。


「…あ、の…、」

喧嘩しないでください、とは言わない。
汰絽の気持ちを感じ取れたのは好野だけだった。
風太の生活の中で喧嘩が組み込まれていることは汰絽は痛いくらい知っている。
だから、言えなかった。
ただ、ケガだけはしないでほしい。
そう思うことしかできないのだ。


「お前が巻き込まれたらいやだから、あんま外に出るなよ」

「はい、一応、気を付けます」

「一応じゃなくてな」

「…はい」

汰絽が俯いたのを見て、好野は困ったように微笑んだ。
それから杏の方を見ると、杏も同じように笑っている。


「よし君もね」

「はい。…なるべく、汰絽と一緒に居たいんですけど」

「だって、はるのん」

「ああ、俺がいないとき、うちに来てくれ。出かけるときは必ずふたり以上でな」

汰絽にそういうと、汰絽はこくりと頷いた。
不安そうな表情に風太は笑い、汰絽の頬を片手でぶにっと挟む。


「俺もなるべくお前の傍にいるから」

「…ん」

返事をした汰絽は悲しそうだったが、風太はそれを咎めずにもう一度頭を撫でた。
それから、たこ焼きに手を伸ばし、口元に運ぶ。
ゴミ捨ててきますよ、と好野が汰絽に手招きをした。
汰絽も飲み終えたカップを手にゴミ捨てに向かう。
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