お土産
「ただいまーっ、たぁちゃーん!」

可愛らしい声が聞こえてきて、汰絽は玄関に走った。
小さな体を抱き上げ、玄関に立っている風太を見上げる。
結子と会話をしている風太は汰絽の方を向いて微笑んだ。


「おかえり、むく。…結子さん、ありがとうございました」

「いいえ。こちらこそありがとう。むくちゃんとってもいい子さんだったわ」

「あ、これ、お礼です」

結子に手渡したのは、汰絽が作ったクッキーだ。
可愛らしい包装用紙にくるまれていて、結子が目を輝かせた。
こういう時、彼女の乙女のような部分が見え、ほくほくとした気持ちになる。


「手作り?」

「はい」

「おいしそうだわ。私、甘いもの大好きなの。結之もうれしい?」

「うれし…」

結子と手をつないだ結之がこくこくと頷いたのを見て、汰絽は微笑む。
そろそろ行くわね、と告げた結子にもう一度頭を下げた。
それから手を振って、挨拶をする。
玄関の扉を閉め、カギをかけるとむくは風太から床に下ろしてもらった。
素直に降りたむくは、汰絽の手を握って笑う。


「楽しかった!」

「そっか、良かったね」

「ゆうちゃんのおうちおっきいの!」

「そうなんだ」

「おっきいわんこさんだいたの!」

「わんこさん?」

「しゃぱー? しぇー? わんこさん」

「シェパード?」

「うん!」

首を傾げながら必死に伝えるむくに、汰絽が嬉しそうに笑みをこぼす。
むくの柔らかな髪を撫でながら、片手で鞄を受け取るのをながめながら、風太も微笑んだ。
ああ、可愛いな、なんて思いながら、ふたりを部屋に入るように促した。


昨日の集まりの後、あのまま黒猫で夜を過ごした。
なかなか眠りにつけなかったが、汰絽の寝息につられていつの間にか眠っていたようだ。
太陽が頭の真上に来る前に目を覚ましてから、ふたりは黒猫の掃除と後片付けを行い、マンションに帰ってきた。
今は、夕飯前で、汰絽はキッチンで夕飯を作っている。
風太はむくとふたり、リビングで絵本を読んでいた。


「ふうたー、おりがみ」

「ん? おりがみ? あったか?」

「んーん! ゆうちゃんくれたの!」

「おお、良かったな。折り紙するか」

むくが小さなカバンの中から折り紙を持ってくる。
色とりどりの折り紙の中から、むくは青色、風太は黄色を手に取った。
テレビの下の棚に入っている本から折り紙の本を取ってきて、むくと一緒に降り始める。
ふいに、本棚を見ると、むくのための絵本がたくさん置かれていて、思わず微笑む。


「ふうた、ふうた、ぱんだ!」

気合いを入れたむくが小さな手で折り紙を折る。
それっぽい形になったのを見て、風太はむくの頭を撫でた。


「お、上手だな」

嬉しそうに笑ったむくが汰絽に似ていた。
ぽんぽんと頭を撫でてから風太も折り紙を折る。


「ふうたもおって」

「ああ。これなんだ」

折ったやつを見せると、むくがぱあっと顔を輝かせた。


「にゃんこさん!!」

きゃっきゃっと嬉しそうにジャンプするむくに、風太は笑う。
風太から受け取ったむくはにゃーにゃーと猫のまねをした。
その様子がとても愛らしく風太はむくを抱きしめる。


「ふうた、ぎゅーっ」

むくも同じように抱き付いてきて、風太はもう一度笑った。
そんなことをしているうちに、汰絽がごはんの時間ですよ、と声をかけてくる。
むくと一緒に手を洗ってから、テーブルに着いた。


「むく、ゆうちゃんと何して遊んだの?」

「プールはいったよ」

「プール?」

「お庭にあったの!」

「庭にプールか、すごいな」

風太の言葉に汰絽は少し驚いた。
大手出版社のお孫さんなのに、感覚は一般人なんだよね、と思わず笑ってしまう。

早めに終わった夕食後、3人はリビングでゆっくりと過ごしていた。
風太が急に立ち上がって、部屋からむくへのお土産を持ってくる。


「むく、ほい」

風太から手渡された紙袋を開けて、むくは嬉しそうに立ち上がった。
取り出された春野家にそっくりな大きめなにゃんこたち。
むくの隣に座る汰絽も嬉しそうに微笑んだ。


「にゃんこさん! あ、ふうたみたい、たぁちゃん!」

「みんな、そっくりなの。うれしい?」

「うん! ありがとう」

むくに抱きしめられた4匹のにゃんこたちはきゅっと少しだけ苦しそうに見えた。

家族始めました。end
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