あたたかな声
階段を上る途中、温かそうな蜂蜜みたいな色をした猫っ毛が風太の目に入った。
今朝すれ違った時、桜の花弁を何枚もくっついていて、なんとなく温かい気持ちになったのを思い出す。


「よしくんってばあー!」

と、何度も友人を呼ぶ声を、風太は耳を澄ませて聞いた。
聞いている人を穏やかにさせるような、柔らかい声。
風太は階段を登り終え、汰絽の後ろに立った。
後ろから、持ち上げようとしていたゴミ袋を、汰絽の手と一緒に持ち上げる。


「あ、あれ?」

持ち上がって、つま先立ちになった汰絽は、あわあわと慌てた。
そんな様子に、思わず笑い声をあげて、汰絽の手を離した。
そっと振り返ると、ゴミ袋を持ってくれた人が目に入る。


「おもしろいやつ」

くく、と低い笑い声に汰絽はそっと顔を見る。
白い前髪からのぞく空色の瞳は優しい色をしていた。
ゴミ袋を持って、汰絽を見る。
何を捨てたんだ、と低く呟く声が聞こえた。
ぽかん、と風太を見ている汰絽に、風太はもう一度笑う。


「捨てに行くんだろ?」

「え? …ついてきてくれるんですか?」

「持てないんだろ? なら、ついていくしかねえだろうが」

「あ、そうですね、はい」

風太が階段を下りていく。
それにつられて、汰絽も階段を降りた。
好野が言っていたこととは全く違う。
目があっても、殴ってこない。
汰絽は噂とは全く違うことに、思わず笑みを漏らした。


「猫みたい顔してるな」

「にゃんこ、ですか?」

「ああ、目元がそっくりだ」

「にゃんこ、嬉しいです。にゃんこ好きですよ」

「へえ、俺も猫は好きだ」

なんだか、優しい人のようだ。
緩やかな話し方に汰絽はほっとする。
怖くはなかったけれど、初対面の人と話すのは少しだけ苦手だ。
話しているうちに、好野の所在を不思議に思った。
静かになった汰絽を振り返って止まった風太は、少しだけ口角を上げた。
さっきのフツメンなら下にいる。
そう汰絽に教えて、階段を降りる足を再び動かす。
遅れないように、汰絽も足を速めた。
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