大好きなんですね
「井川さんって、風太さんのこと、大好きなんですね」

「はぁっ? …って、そういう意味じゃないか…」

「?」

「俺、恋人が一番だから。風太はその次の次の次のつ…笑ったな」

くすくすと笑う汰絽に、夏翔も微笑む。
それから、置いていた包丁を持ち直して、作業を再開させた。
夏翔は恋人の話をしていて、汰絽はその話を頷きながら聞く。

不意に、昨日風太と一緒に寝た時のことを思い出した。
耳に残る、低い声。
抱きしめられた感触。
あんなにも大好きな筋肉に包まれていても、筋肉に集中することがなかった。
風太のぬくもりがよみがえるように身体が熱くなって、汰絽はきゅっと身体を縮める。
頬も熱くなってしまい、夏翔に見えないように俯いた。


「…?」

「あ、オーブン終わったぞー」

「…はい」

「どうした?」

「いえ、」

よくわからない熱を振り切るように、汰絽はオーブンを開いた。
ちょうど風太も帰ってきて、缶詰を開けてもらう。
待っててくださいね、と笑いかけると、風太も小さく笑ってくれた。
その優しい表情に少しだけ嬉しくなった。



「うおおお、すごいクオリティだな…」

「それほどでも」

夏翔の声に照れるようにそっぽを向いた。
そんな仕草が最近まで中学生だったことを思い出させる。
風太と違って、幼さが残っているな、なんて思いながら、夏翔は汰絽の頭を撫でた。


「汰絽」

いつもと違うトーンで呼ばれ、汰絽は振り向いた。
入口に立っている風太の表情はいつもと変わらないけれど、少しだけ、ほんの少しだけドキリとした。
すぐに傍に寄っていくと、サンキュ、と言われる。
なんだろう、と首を傾げながらもエプロンを外した。
こっちで休め、と手を引かれ、ついていく。


「心狭いなー、風太」

笑いながら言う夏翔に中指を立てながら、風太は汰絽と一緒に店内のソファーに腰を下ろした。
ふわふわの髪を撫でて、白くぷにぷにの頬に親指で撫でる。


「そろそろみんな来るだろうから、そばに居ろよ」

「はい」

「たろ、甘い匂いするな」

ふいに香ってきた香り、鼻先を髪に寄せて香りを嗅ぐ。
とても甘い香りがした。
生クリームの濃厚な香り。
スポンジの卵と粉が混ざった滑らかな香り。
まるで、それが汰絽の香りのようで、もう一度香りを吸い込む。


「そうですか?」

首を傾げながら、自分の髪を摘んで鼻に寄せようとする仕草が可愛くて、風太は笑いながら汰絽の髪を梳いた。


「届かないだろ」

「そうですよね」

ふたりで笑っていると、夏翔が来たみたいだぞ、と入口を開けて声をかけてきた。



「楽しめよ?」

「はい! おいしそうなのたくさんだし、たくさんきん…」

「筋肉は禁止。俺だけにしな」

「…うー…。一日一回」

「それは俺が恥ずかしいから駄目です」

「けちー」

風太が汰絽の頭をぐりぐりしていたら、夏翔が開けた扉から大勢のカラフルが集まってきた。
汰絽は店に入ってくるメンバーたちに頭を下げ挨拶している。
ソファーに座ったふたりのところに杏と美南がやってきて、向いのソファーに腰を下ろした。
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