風太策士になる
「たろ、先風呂入って。部屋片づけてくる」

「あ、はい」

「綺麗にしとく」

「ふふ」

リビングに荷物を置いてから、風太は部屋に汰絽はお風呂場に向かった。

お風呂から上がってリビングでテレビを眺める。
ひとりになるのは、少しだけさみしい。
きゅっと小さく手を握ると、後ろからバタンと戸を閉める音が聞こえた。


「早かったですね」

「まあ。たろさんが待ち構えてると思ってさ」

「ふふ、ありがとうございます」

「よし、おいで」

こくりと頷いて立ち上がる。
風太の隣に行くとポンポンと頭を撫でられてほっと息をついた。

初めて入る風太の部屋は、とてもきれいだった。
何を片づけたのだろうか、と首を傾げながら、風太に勧められてベッドに座る。
ベッドに腰を下ろした時、ふんわりと風太の香りがした。
ほんのりと甘さが混じっている清涼感のある、スカッシュの香り。
クーラーが効いてその香りが時折ふわりと鼻をくすぐった。

黒いカバーがかかったベッドと、上品な黒色のディスク。
部屋の形は汰絽とむくの部屋と同じだが、壁が本棚で埋まっていた。
本棚の中の本は様々で時々、漫画が挟まっている。
一番端の本棚にはCDやDVDも入っていた。


「どれがいい、たろ」

手渡されたバインダーを開いて、書かれた文字を読む。
どれも物々しい感じの言葉で背筋がぞっとした。
それと、こんなに丁寧にまとめるほど几帳面だったのかと少し驚いた。


「…リストつけてるんですか」

「こんだけあるとリストでも書いとかなければ、分からなくなるんだよ」

「たしかに、そうですね」

「で、どれにする」

「…」

風太に促されてぐっと押し黙る。
書かれていたタイトルは、どれもホラー物。
洋画に邦画、片っ端から集めたくらい、たくさん並んでいた。


「…」

「怖いのだめか?」

「…ふつう、怖いの好きな人なんていないと思います…」

「そうか? ま、にゃんこさんたちもいるし」

風太はそう言いながら、汰絽の隣に買ってきたぬいぐるみを置いた。
リストを置いて、そのぬいぐるみを手に取る。


「な? 大丈夫だろ」

「…大丈夫じゃない…!」

「いいだろ、付き合ってくれよ。な? 一緒に寝てやるし、ほら、俺が抱きしめれば筋肉味わえるだろ」

「うう、魅力的な…!」

ちらりと見せられた腹筋に汰絽がうううと唸った。
そっと手を伸ばすと、風太に叩き落とされる。
がっくりと首を落としてから、汰絽は小さく頷いた。
DVDを取り出した風太は準備をしてすぐにベッドのところに戻る。


「もう…」

少しむっとしながらも汰絽はぬいぐるみをぎゅっと抱きしめた。
壁についたベッドに乗り上げた風太は壁に背を預け、汰絽に腕を広げて見せる。
いそいそと近寄ってきた汰絽は背中を向けてテレビに向かった。
リモコンを操作してDVDを再生する。


「怖かったら言えよ」

「ん…、も、こんなの、恋人同士でしかしないのに」

「そんなことわかるんだな」

「僕がそういうことに無知だと思わないでください」

「はは、ごめんよ。まあ、義兄だろ。兄弟ならあるさ」

「…、それでいい、です。タオルケット借りていいですか」

「ああ、ほら」

さっとタオルケットを取った汰絽はそのタオルケットを頭からかぶった。
それじゃあ見えないだろ、と言いながらタオルケットから頭を出すと、泣きそうな目がこちらを見てくる。


「大丈夫」

「…意地悪です」

ぷいっと前を向いた汰絽に、風太はしたり顔をした。
これで一晩は汰絽とふたりきりだな、と、不健全なことを考える。
これでこそ高校生、と開きなおりながら、汰絽の香りをかいだ。
家で使っているシャンプーの香りがする。
自分の使っているシャンプーと同じ香りのはずなのに、どこか甘く感じた。


「これ、知ってる。名前だけ聞いたことあります」

「へえ」

「よし君が見に行ったそうです」

「ホラー好きなのか、あいつ」

「そうみたいです。僕は好きじゃないから、分からないけれど」

風太の声を耳元で聞きながら、そっと目を瞑る。
ベッドから香ったスカッシュの香りがした。
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