ベストオブティキン
異様な空気な屋上へ続く階段。
チリトリにゴミを入れ終わった汰絽は、好野を見た。
好野の手が小さく震えている。


「おおふ…」

「生粋のチキンなんだね」

「…ベストオブティキンって奴だよ。…逝ってこい」

好野に指さされ、汰絽は頷いた。
その前に好野に手をひかれて、振り返る。
好野の青ざめた顔に笑いながら、何、と声を上げた。


「怖くないのか?」

「え、どうして?」

「いいや、なんでもない。お前に聞いた俺がバカだった」

「変なよし君。ゴミ袋、持ってくるね」

屋上の扉の隣のゴミ箱に向かう汰絽に好野は手を合わせた。
チリトリを持って、静かに汰絽が戻ってくるのを待つ。
ちらりと視線を話しこんでいるふたりに向ける。
視線の先には今朝話したここ一帯を束ねる不良さんがいる。
白髪蒼眼の春野風太。

黒い噂が絶え間なく、聞いたところ、目を合わせただけで病院送り。
ただでさえビビりな好野の恐怖はピークに達していた。

不良のトップふたりのもとに残された好野は汰絽を召喚しようと、早く早くと呟いた。


「なあ、そこのフツメン」

「は、は、っははぁ」

「…ゴミ取りに行ったちんこいの、名前なんて言うの?」

「な、名前? 汰絽? え…、あ、あれは」

「ッチ、おい。はっきりしろよ」

春野風太は眉間にしわを寄せ、好野の胸倉をつかんだ。
掴まれた胸倉に目を寄せ、好野は恐怖に顔をゆがませる。
そんな中、杏がにこやかに笑いながら、風太の手を叩いた。


「はるのーん、だめじゃーん。フツメン、怖がってるでしょ! 俺らとは違うんだからさぁ」

「ッチ」

舌うちはあったものの、風太は好野を下ろしてくれた。
ひい、と、悲鳴は漏れたものの、助けてくれたもうひとりの危険人物を見る。
杏は、楽しそうに笑いながら、好野の腕に腕をからませた。


「フツメン君、この人ね。さっきの子の名前が知りたいみたい。ねえ、教えてくれない?」

「…た、汰絽をどうするつもりですか…、い、い、いくら、先輩方でも、汰絽を虐めるのは…!!」

杏に絡みつかれた好野は震える声で、杏に突っかかった。
意表を突かれた杏は、風太をちらりと見て笑う。
にんまりとした笑みは、肉食動物を彷彿とさせた。


「俺に突っかかるほど、あの子が大事? ふふ、君、面白いね。チキンなのに」

「ち、チキンは関係ないです…」

「よしくーん、ゴミ箱がいっぱいで、持ち上げられないー!なけなしの筋力〜」

上の方から持ち上げられません、という情けない報告を受け、好野は杏から腕を離そうとした。
けれど、絡みついた腕の力は強くて解くことができない。
杏は細くて華奢な方だが、好野ごときではかなわなかった。
茫然としているうちに、好野の脇を白髪が通り過ぎて行った。
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