総長だって人の子です
「たろ」

「ん、風太さんびっくりしました」

「そっか。悪いな、急に抱き上げて」

「ううん、大丈夫」

「うまいか?」

こくりと頷いた汰絽は風太を見上げた。
見たことのない風太が目の前に居て少し寂しい気持ちになる。
それと同時にきゅうと胸が締め付けられるような気持ちにもなった。


「どうした?」

「なんか、変です」

「変?」

「なんか…変」

「具合悪いのか」

「ううん、違いますけど、なんか」

胸がきゅんとする。
最後まで言わずにシャーベットと共にその言葉を飲み込んだ。
隣に座った風太も同じようにシャーベットを食べている。
汰絽は食べ終わった容器を夏翔に渡し礼を告げてから椅子を反転させた。
カラフルな一同が楽しそうに、それでいて静かに騒いでいる。
みんな歯を折られたくないようだ。
風太もアイスを食べ終えてから汰絽と同じように向きを変えた。


「そーちょー。みんな汰絽さんの名前聞きたいみたいっす」

「お、美南帰ってきたのか」

「うっす」

「あー、名前、言うの忘れてたな」

思い出したように言い、風太はあたりを見渡した。
みんな同じように知りたがっていたのか、目を輝かせている。
杏は汰絽の隣に腰をおろし、汰絽にちょっかいを出し始めていた。


「汰絽」

「汰絽さんっすか?」

「まあ、そう呼べ」

「うっす。めちゃくちゃかあいいっすね。つり目で気が強そう。かなりタイプっす」

「お前…、男もいけるのか」

「杏先輩はヘテロっぽいけど、結構いるじゃないっすか」

「まあな。…こいつには手ぇ出すなよ」

風太の声が低くなって美南はわざとらしく体をすくませた。
それから大丈夫っすって告げて、風太に頼まれて買い出ししてきたものを渡す。
煙草と甘いものが入ったコンビニ袋。
その袋の中には紙切れが入っていた。


「ちゃんと聞き出せたか」

「はい。ばっちりっす。…杏さんが心配してましたよ、汰絽さんのこと」

「だろうな。…まあ、俺が一緒にいてぇからこうしたんだ」

「けど…、大きな抗争がありそうっすし」

「あー、わかってるよ。…ついでに言うと、そろそろ俺らも卒業だからさ」

「…総長」

「大丈夫だっての。誰だと思っての」

風太が優しい顔で汰絽を眺めるのを見て、美南はああ、と声を漏らした。
今までにこんな風太の優しい目を見たことがない。
この人も、人間なんだな、と思いながら、風太から視線を離した。
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