歯ァ一本
カレーを食べ終わったころに、大体の人数が集まった。
多少は居ない人が居るが、どうやら始めるようだ。
立ち上がった風太に軽く引き寄せられ、左耳を風太で右耳を手のひらでふさがれる。
風太の血の流れる音が聞こえてきて、少しどきりとした。
そっと首をそらし上を見上げると、風太が大きな声で話している。
風太の顔は、とてもキラキラと輝いていて眩しい。
わっと大きな歓声が隙間から漏れて聞こえてきた。


「お前らー久しぶりだからっていつまでも騒いでんじゃねーよ!」

「総長っ」

「いたんすか!?」

「久しぶりっす!」

どっと笑い声がわき上がり風太は思わず笑う。
相変わらず、ここは居心地がよい。
周りの楽しげな声も煩わしくない。
ここにいる奴らはみんななにか胸に抱えていたりする。
ひとりひとりが自分が居る意味を、見出そうとしている。
だから、そんな奴らが集まるここが好きだ。


「いいかー、お前ら。静かにしろよー」

「なんでっすかー!?」

「俺らいつも静かですよー!」

「そういうのいらねーから!」

風太の笑い声にどっと笑いが起きて、すぐにしんとする。
一気に静かになった黒猫を見渡してから、風太は汰絽を自分の体から離した。


「たろ」

いつもよりも甘い声が聞こえてきて、顔を上げた。
思ったよりも近い位置に顔があってかっと熱くなる。
体に上った熱を冷まそうとふるふると顔を振っていると、抱き上げられて、椅子の上に立たされた。


「わ、わっ」

「聞けよ、お前ら」

風太に腰元を支えられているから安定しているが、不安定で汰絽は中腰になりながら風太の腕を掴んだ。
ほっと一息ついてからあたりを見渡すとカラフルな集団が汰絽を見上げている。
わあ、と思わず声をあげてしまい、後ろにいた夏翔が苦笑したのが聞こえた。


「いいか、この子な、俺の大事な人」

「総長! とうとう恋人が!?」

「黙って聞けなー。だからお前は馬鹿なんだよ」

「すみませんっ」

「はは。いいか、大事な子だから、なんかあったら助けてやってくれよ」

今の状況についていけずに思わずぽかんとしてしまう。
風太はチームのメンバーの質問に答えるので忙しいのか、汰絽の腰をぽんぽんと叩いていた。


「代々総長がな、こうやって大事な奴をメンバーの前で紹介するんだ」

「へえ…」

「だから、この後汰絽ちゃんのところにたくさん人が来て色々聞かれるけど、風太がいるから安心しな」

「はい」

「ここの奴らはいい奴らしかいないから」

夏翔に言われ、ほっとしながら楽しそうな風太の様子を眺めた。
自分より低い位置にいる風太は新鮮で、小さく笑った。


「よーし。お前らにしては理解が早い! いいか、この子が居る時はあんま騒ぐな。騒いだ奴から歯ァ一本ずつ折ってやろう」

「ひーっ」

悲痛な悲鳴が聞こえてきたが、風太は知らんぷりをして汰絽を椅子から下ろした。
総長の命令は絶対なのか、みんな控え目に騒いでいる。
下ろされた汰絽はほっと息をつきながら椅子に腰を下ろした。


「アイス食べる?」

「はい」

夏翔に声をかけられ、頷くと小鉢に入ったレモン色のシャーベットが出てきた。
甘酸っぱい香りがして思わず目を細めた。
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