あら、そんな趣味が
電車が駅に着き、ふたりは最寄り駅に降りた。
改札をくぐってから風太の隣を歩く。
汰絽に合わせたゆっくりとしたペースで歩き、駐輪場に向かった。
「バイク乗るから、紙袋も鞄も抱えろよ」
「はい」
「しっかりつかまれよー」
「はーい」
駐輪場で風太は汰絽にヘルメットを被せる。
ふがっと間抜けな声が聞こえたが、それは聞こえなかったことにした。
それから、汰絽を抱き上げてバイクに乗せる。
「自分で乗れるんですが…」
「体重チェックだよ」
「…むっ」
「ほら、鞄とか抱えて」
鞄と紙袋を抱えた汰絽を確信してから自分も乗り、バイクを出す。
来た時と同じように景色を眺めた。
見慣れない道を走るバイクはとても早く、風が気持ち良い。
小道に入る前にバイクを停めた風太に下ろされる前に、自分でバイクから降りる。
それから風太にヘルメットを返した。
「路地裏だぁ」
珍しいのかきょろきょろしながら歩く汰絽に笑い、風太はバイクを引いた。
後ろをゆっくり歩いてくる汰絽は、不意に風太に目を向けた。
黒いTシャツから覗く腕は、無駄な筋肉や脂肪はついていない、綺麗な筋肉の付き方をしている。
「ふあっ」
「ん? どうした、変な声出して」
「き、」
「き?」
「きんにく…」
歩みを止めた風太に、汰絽はぷるぷると震える手を伸ばした。
その手の先には風太の二の腕がある。
汰絽はうっとりとした表情で、二の腕を眺めていた。
「ふああっ、筋肉! 筋肉!」
伸びてきた小さな手は、風太の二の腕を両手でがしっと掴んだ。
「ああふ…この触り心地! 張り! はぁっ」
「…おい、どうした」
「筋肉ーっふああ、筋肉好きなんです! あう、こんなきれいな生筋肉初めて見たぁっ」
今までにないくらい嬉しそうな顔をした汰絽に、風太は呆気にとられながらバイクを泊めた。
腕についてくる汰絽はうっとりとした表情をしていて、可愛い。
「店入ってから好きに触れ」
そう言って汰絽を剥がす。
剥がされた汰絽は残念そうに眉を下げた。
からんからんとかわいらしい音を立てるベル。
店内に入ると、モダンな雰囲気がお洒落で、汰絽はあたりを見渡した。
綺麗に清掃された、大人な雰囲気。
「綺麗ですね」
「そうか?」
「わっ、井川さん。お久しぶりです」
「いらっしゃい。おー、汰絽ちゃん前より可愛くなったな」
「かわいくないですー。井川さんはお店の人みたいです」
「お店の人だからな。適当に座りな」
「はい、ありがとうございます」
「まだ客が来てないから好きにしてな」
先にソファーに座った風太に呼ばれ、汰絽はそちらへ駆け寄る。
約束約束、とスキップをしそうな勢いだ。
風太の向かいにもソファーがあるが、汰絽は風太の隣にストンっと腰を下ろす。
ふかふかのソファーに汰絽の身体が受け止められた。
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