可愛い寝顔
「幸せそうだな」

「幸せです」

「にゃんこさんがいっぱいだな」

「はいっ。あの白にゃんこさんの名前はふーたさんですね」

「はは。…じゃあ、あの蜂蜜はたろさんだな」

「じゃあ、小さいのは、むくさんですね」

「あと、これは親父だなー。そうだな。…あ、そろそろ行くか」

「はいっ」

汰絽が可愛い紙袋を幸せそうに抱え、それからはじめよりは早いペースで駅に向かう。
あのファンシーな店から駅は近くて、風太はまた流れるように切符を買い汰絽に手渡した。
そら行くぞ、とばかりに汰絽の背中を押して改札をくぐらせる。


「あっ、ありがとうございます」

ホームに滑り込んできた電車に走って乗り込む。
ドキドキと鳴る心臓を抑えようと深呼吸をすると、風太が楽しそうに笑った。


「びっくりしました。…あっ、今お金渡します」

「いいよ」

「えーっ、また買ってもらって申し訳ないですっ」

「いらないって。お前怒りっぽいなぁ、意外と」

「そりゃあっ、お金のことですしっ」

汰絽がぷりぷりと怒っていると、風太は笑いながら汰絽を扉側へ移動させた。
混んでいる車内で、小さな汰絽は押し潰されてしまいそうだ。
風太の心遣いにお礼を言いながらも、汰絽はぷりぷりと怒る。


「電車代、いくらですか」

「教えない」

「いくらですか」

「教えない」

「…強情ですねっ」

むすっとした汰絽の顔もどこか愛嬌があって、風太は新たな一面を見て嬉しくなる。
好きだと自覚した時から、ひとつひとつが新鮮に感じていた。


「お前もな。…今日は俺が誘ったし、男気見せさせろ」

「僕も男なんですけど」

「え?」

「えっ?」

「冗談だよ。お前が男だってくらいわかってるって」

話が逸らされたことに気付いた汰絽は押し黙り、ぎゅっと紙袋を抱きしめた。
可愛い紙袋がクシャっと音を立てて、風太は口元を抑える。
あーっと唸ってから、風太は汰絽の頭を撫でた。


「ごめんって」

「お金…」

「じゃあ、返さなくていいから明日も俺に付き合って」

「…何するんですか」

「ショウのところで、チームの奴らの誕生日会。料理手伝って」

「いいんですか?」

「たろさんの上手い飯が食べたいなぁ」

「…っはい!」

一駅過ぎて少し車内が空いて、汰絽から少し身体を離した。
怒っていた汰絽は納得したのか楽しそうに微笑んでいる。
明日が楽しみになるな、と風太は笑った。


「キーホルダーどこにつける?」

「鞄につけます」

「鞄か。俺は携帯につけるわ」

「お揃い!」

「うれしい?」

「うれしいですっ」

汰絽は紙袋を覗き込んで嬉しそうに笑う。
ころころと表情が変わり、かわいらしい。
不意に、ジーンズのポケットに入れた携帯が震え、手に取る。
メールを読むと、朝、むくを迎えに来た結子からのものだった。


「汰絽、結子さんから」

「わ、メール?」

「おう。写真も付いてる」

「お昼寝…っ、わあ、ゆうちゃんもむくも可愛い…」

「かわいいな」

「はいっ。お昼寝してるとき僕も寝てしまうので、まじまじと見たの初めてです」

「そうか。…今度、俺も一緒していいか?」

こくこくと何度も頷いた汰絽から携帯を受け取り、もう一度頭を撫でた。
それから、ゆっくりと視線を汰絽から窓に移した。
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