海
きらきらと輝く海。
履いていたスニーカーと靴下を脱いで、細身なジーンズを捲り上げた。
白い足が楽しそうに海にかけていくのを見て、風太も同じようにジーンズを捲り上げて海に入った。
「つめたーっ」
「うお、確かに」
「わーっ」
「お前、すっげー嬉しそうだな」
「うれしいです! 連れてきてありがとうございますっ」
「どういたしまして」
ばしゃばしゃと上がる水しぶきがきらきらと光り、汰絽がはーっと息を吐いた。
風太はそんな汰絽の顔に水を少しかける。
驚いた汰絽はふるふると顔を振って水を落とした。
「つめたいっ」
「だろうな。冷たそう」
「仕返しです」
ばしゃっと音を立てて、今度は風太が水をかぶる。
真正面から受けた風太は、白い髪に潮水を滴らせた。
ぽたぽたと頬にあたる水を感じて、風太も同じようにばしゃっと音を立てて汰絽に水をかけ返した。
「わっ、ばしゃばしゃっ」
「俺もな」
「怒った?」
「怒ってねえよ」
「ふふ、涼しいですね、水、浴びたから」
「そうだな」
風太も汰絽もびしゃびしゃになりながら、ふたりは砂浜へ引き返した。
腰を下ろし、息を吐く。
まぶしさに目を細めながら、汰絽はぼんやりと海を眺めた。
「どうよ」
「最高です」
「そうか。…たまにこうして休むのも必要だからな」
「そうですね…」
「だから、またどっか連れて行ってやる」
「はいっ」
返ってきた嬉しそうな返事に、風太は笑う。
それから、あー、と声を出しながら砂浜に寝そべった。
「ああっ、服、砂っ」
「払えば落ちる」
「濡れたから落ちにくいと思いますよ!」
「乾けば落ちるってー。たろうるせー」
「風太さんがおおざっぱだから!」
「俺はおおざっぱでいーの。たろも寝転がっちまえ」
むーと唸っていると、風太はそれを聞きながら目を瞑った。
潮風が頬を撫で、鼻をくすぐる。
観念したのか、汰絽ももぞもぞとした後に寝転がった。
「お、なんだ」
「はい?」
「服、汚れるんじゃねーの?」
「タオル敷いたので」
「うわ、俺にもよこせよ」
「ほわっ、引っ張らな…」
汰絽のほうをむくと、ブイサインをしている姿が見える。
その身体の下に敷いてあるタオルを恨めしそうに見た風太は、そのタオルをぐいぐいとひぱった。
必死に抵抗しているうちに、ごろんと砂の上にうつぶせに転がってしまう。
そんな汰絽に、風太は大笑いした。
「く…っくっ、お前、マジ面白いなー」
「うーっ」
「唸るなよ。おっ、あんなところにクレープ売ってるぞー」
「わーっ、クレープ!」
「買ってやるから立ちな」
「お言葉に甘えます!」
先に立った風太に誘惑されて、汰絽は立ち上がった。
それからタオルと鞄を抱え、早く早くとせかした。
少しだけ混んでいるクレープ屋に期待が高まる。
カップルの後ろに並び、隙間から見えるメニューを眺めた。
「どれがいい?」
「いちごちょこ…」
「いちごちょこな」
「風太さんは?」
「んー、俺はいい。ちょっとくれよな」
「えー」
「えー」
「冗談ですよ」
「さいですか。苺は俺が貰った」
「ひーん」
そんな会話をしていると、前のカップルがくすくすと笑っているのが聞こえる。
汰絽は恥ずかしそうにしゅんっとしながら、風太を見る。
あいにく、風太はにやにやと笑いながら、汰絽を見下ろしていた。
カップルがクレープを受け取って、ふたりの番が来る。
風太は苺チョコレートクレープを頼み、受け取った。
「苺、好きなんだ?」
「好きですよー。苺もバナナもキウイも」
「へえ、嫌いなのは?」
「食べれないものとか」
「それはな…」
くすくすと笑っている汰絽の頭を撫でながら笑う。
クレープを食べている汰絽の顔がきらきらと輝いていた。
「風太さんは?」
「んー、内緒」
「えー?」
「嫌いなのはねえよ」
「…好きなのが知りたいです」
「駄目だっての」
ふたりは階段に腰を下ろす。
汰絽の背中を見ると、砂がついている。
「砂」
そう呟いて、払うと、汰絽も同じように背中を覗いた。
砂がついているのを見て、風太さんも、と呟いた。
「払って」
「はい。あ、持っててください」
クレープを受け取り、背中を向けると小さな手がぽんぽんと払ってくれる。
その音を聞きながら小さく笑う。
クレープを一口貰った。
「だいたい落ちました」
「おう。さんきゅ。一口貰った」
「おいしかったですか」
「おう」
風太の手に持たれたままのクレープに汰絽が齧り付いた。
んーっと嬉しそうな顔をして、赤い舌が唇についたクリームを舐める。
「か…」
「か?」
「なんでもねえ。ほれ、食え」
はてなマークを浮かべた汰絽の頭をぽんぽんと撫でて、風太は行くか、と告げた。
prev |
next
back