夏になりました
「行ってきまーす」

いつのまにか開けていた梅雨。
夏の日差しに、帽子を被ったむくが、大きな鞄を提げて玄関を出た
嬉しそうな後ろ姿に汰絽は優しく微笑む。
結子と会話を交わし、結之にむくをお願いね、と頼んだ。
何度も頷く結之に笑みを浮かべ、ほっとする。



「行ったな」

「はい…」

「大丈夫だって。もっかい抱きしめようか?」

「…平気です」

汰絽の答えにがっくりと肩を落とし、風太は広げた腕を元に戻す。
それからぽんぽん、と蜂蜜色を撫でて、部屋に入るように促した。
少しだけ落ち込んだような様子を見せる汰絽に苦笑し、テーブルに載っている皿をシンクに運んだ。
ふう、と息をついた汰絽は、皿を洗いはじめる。
風太も手伝いをしようと、汰絽の洗った皿を洗いはじめた。


「汰絽さん」

「はい、何でしょうか」

「今日は予定ありませんか」

「…特に、ありませんが」

「じゃあ、デートでもしませんか」

「デート?」

風太の言葉に、汰絽は笑いながら首をかしげた。
ちらりと風太に視線を寄せると、神妙な顔をしている。
ふふ、と笑い声を洩らしながら、汰絽は泡のついた皿を濯いだ。


「どこに行くんですか?」

「んー。海とか」

「海、ですか?」

「海。あと、ショウのとこの店も連れてってやるよ」

「井川さんの?」

「おう。紹介したい奴等がいるから」

「じゃあ、お願いします」

「おう」

風太の嬉しそうな声色を出しながら、皿を拭いていく。
皿を拭くペースが速くなったのにつられ、洗うペースも速くなった。
今日の予定のおかげで、少しだけ落ち込んでいた気持ちがあがっていくことに小さく笑う。


「たろ、皿洗って支度したら、すぐに出るぞ」

「はいっ、あ、風太さん」

「ん?」

「肘のとこ、泡」

汰絽はそういうと、風太の腕をとり、肘についた泡を指先で掬った。
それから水でその泡を流す。
風太はその作業をじっと見つめてしまった。
小さな手が、指先が、自分の肘に触れるのを。
些細な触れ合いを嬉しく思う自分に、風太は思わず笑った。


「風太さん? 支度、しないんですか?」

「あ、するする。じゃあ、支度出来たらリビングで待ってて」

「はい」

じゃあ、と手を振った汰絽に風太も振り返す。
猫っ毛がふわふわと揺れながら部屋へ向かうのを見て、風太ははーっとしゃがみこんだ。


「かわいすぎる…!」

それだけ呟いて、風太は勢いをつけて立ちあがった。
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